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第29話
別にゲイじゃないし、誰が誰と寝ようとなんでもいいと思ってたけど、そうはっきり言われちゃうとあんまりいい気分はしない。
「はーん、そーですか」
わざと嫌味ったらしく言ってやると、少し慌てた感じで「いや、浮気じゃないからな」と言っていた。
「浮気も何も俺ら付き合ってねぇし」
「違うんだ、そうじゃなくて」
「別にいいよ」
「いや、聞いてくれ、これには訳が」
「ごめん、マジで本当にいいから。ちょっと遊んだだけだよ」
あんまり慌てるから面白くて。
お詫びの印に自分からキスして「怒ってない」と改めて話した。
「俺だって、女遊びしてたからアイコだよ」
あえて、男と寝たことは言わなかった。
「ううん……そうか」
「複雑?」
「少しな」
お互いに小さな嫉妬心みたいなものがあって、けれどそれっていうのは誰に対する何のための嫉妬心なのか、まだうまく言葉に言い表せない不思議な感覚でもあった。
「あれから、何人と寝たの?」
「恋人はいたの?」
多分、お互いになんとなく聞きたいことを、敢えて聞かずに密着する。
過去の話なんか、今この瞬間にどうでもいいことなんだから。
「今はあんただけだよ」
体をさらけ出すのに、月明かりは明るすぎる。手をつないで、部屋の中に引っ込んだ。
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