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第39話
「うーん、そぉねぇ、直接イヤって言うしかないんじゃないかしら」
それでやめてくれる相手ではない。
「とはいえまぁ向こうもワケあってやってくれてるから、無下にも出来ないっていうか……」
「複雑ねぇ。まぁ喧嘩してるようじゃないからいいケド」
「うーん、まぁね」
喧嘩ではないけども。彼が一生懸命やってくれてるのがわかるから、余計に悪い気がしている。
考え込んでいて動きの止まっていたシェフの手が、また動き出した。
「そういえば、唇は愛情らしいわよ」
楽しげに呟きながら。
とっさに意味がわからなくて尋ね返すと、同じことは言わずに話を続けた。
「あとー、耳が誘惑で、首筋が執着、手の甲は尊敬だった気がする。あとは忘れちゃったわ、フフフッ」
「なんだか全然わかんないんだけど、何それ?」
突っ伏したままの体勢で顔を上げながら尋ねると、ウインクされた。
「キスの花言葉みたいなものよ。場所によって意味が違うの」
「キスの花言葉?」
そもそも花言葉というものすら知らないのに、キスのと言われても全然ピンとこない。
「もしかしたら手首にもキスの花言葉があるかもしれないわよ~、そういうの考えたら、少しは楽しくなるんじゃないかしら?」
シェフの笑顔は曇りなくピュアだ。
「花言葉ねぇ……」
カクテルをぐっと飲み干し、ため息を1つ。視線を外に向けると、プールサイドでパソコンを叩きながら電話をしている彼の姿が見える。
「もー、また仕事してんのね!バカンスの意味ないじゃないのー!」
シェフはなぜか、その姿にプリプリしていた。
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