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第58話
ゆっくりと下ろされたのは波打ち際で、裸足の足の裏に柔らかくむず痒い砂の感触と波が触れる。
「どうぞ、プリンセス」
戯けて、手を広げてテーブルへ誘う。
「今度はプリンセスかよ」
もう言い返すのも面倒で、適当に言わせておいた。
誘われるがままに席に着く。ワインとグラスを挟んで、向かいの席に彼が座った。
足はずっと砂と波に触れたまま。海、夕日と1つになったような気分。
彼の背後には別荘がある。小高い場所にあり建物の全容が見える。ここから見ると、結構遠く感じた。
「乾杯しよう」
ワインを入れてくれる。色の濃い赤ワイン。フランスのものだそうだ。
「俺にも注がせて」
ワインの瓶を受け取り、彼のに注ぐ。
そのまま乾杯した。キン、と透き通った綺麗な音がする。
一口含むと、それだけでもっと心が穏やかになって、つい笑っちゃった。
「どうした? 口に合わないか?」
笑ったのまで気にかけてくる。
「逆だよ」
と言うと、ホッとした顔をしていた。
こんなところで飲むワインが、不味いわけないじゃん。
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