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第59話
「あんまり至れり尽くせりで、どうしたもんかなと思ってさ」
こんなサプライズされて、嬉しくない奴いないでしょ。しかも心を奪われてる相手にこんなことされたら。
「これが夢だったら、どうしようとか思っちゃって」
こんなに穏やかな気持ちになったこと、今まであっただろうか。自分の中にこんなに柔らかな気持ちあったことを、初めて知る。
テーブルに肘をついて微笑みかけると、彼も笑った。幸せそうに。
「夢じゃないさ。俺だって、夢だって言われたらショックだね」
静かにワインを飲む。多分この瞬間、この場所にあるすべての色の中で、一番濃い色をしている。
「いつか、ここでこうしてお前とワインを飲みたいと思っていたんだ」
グラスの中に残ったワインを、くるくると回した。
「それこそ、昔お前と出会ってから、今の今までずっと」
「えー? ホントかよ」
冗談言ってるんだろうと思いながら笑いながら言うのに、彼は穏やかな表情のままだった。
「ここにバカンスに来るたびに思っていた、お前以外の奴をここに連れて来ようと思ったことはないんだ。やっとパズルのピースが揃ったような気分さ、これも運命だったんだろうな」
「運命ねぇ」
「だから、夢だって言われたらショックが大きすぎるな。仕事辞めるかもしれない」
「それはまずいな、世界が混乱するわ」
彼はいつも、ストレートに想いを伝えて来る。俺みたいに、うじうじと悩んだりしない。
申し訳ないと思う反面、その性格が羨ましくもあった。
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