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第60話
「あ、そうだ、お前に見せたいものがあるんだ」
「んっ?」
カラッと変わった空気に、小首を傾げる。
彼は服のポケットから、小さな箱を取り出した。
見るからに高級そうなものが入っている小箱は、否が応でもパンを作った時のあの会話の流れを思い出させた。
(まさかな)
まさかその小箱から出てくるのは。
しかもこのシチュエーションで。
思いながらも、心臓が大きく脈打つ。
思うような物が出てきたらどうするんだ?
男から貰う物じゃないだろ?
そもそもなんでこんな緊張してるんだ?
(んなわけねーよな)
テーブルに肘をついたまま、視線はしっかり箱を見ている。
でも、そんなわけあったとしたら?
頭の中にいろいろな思いがよぎりながら、脈拍は速くなる。
「気に入ってもらえるといいんだが」
彼の太い指が、小箱を開けた。
最高に心臓が収縮した瞬間、目に入ったのは、カラフルな珠が散りばめられた、さくらんぼくらいのサイズの玉だった。
「は……っ?」
一瞬目が点になって、すぐに事態を把握した。
「あ、あれ、か、後輩の」
「ああ! ネックレスが出来たんだ!」
最高にいい笑顔で笑う。
あまりにも笑顔が眩しくて、俺は自分の思い描いていた妄想の浅ましさに赤面した。
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