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第65話
「よかったじゃないの、仲直りしたみたいで」
やっと地上に降ろされると、シェフがこっそり耳打ちして来た。
仲直りと言われて、何のことか咄嗟には思い出せなかったけど、すぐに手首のことだとわかった。
「いや喧嘩してたわけじゃねぇから」
「まぁ似たようなもんなわけでしょ? とにかくよかったわよ、心配してたんだから」
そしてウインクしてくる。多分本当に心配してくれてたんだろう、数日付き合ってきて、そういう人なのはよくわかっていた。
「おいおい、俺抜きで内緒話かよー」
彼が文句を言っているのを
「もう、ガールズトークなんだから入ってこないでよ!」
シェフが俺を抱きしめながら舌を出した。
「ガールズじゃねぇって」
なんて、この中で一番背が低い俺が言っても効力ないのかもしれないけど。
今日の夕食はシェフの地元、フランス料理のフルコースだそうで、聞けば俺たちが海に向かったのと同じくらいの時間に、すでに支度を始めていたそうだ。
「まぁ、さすがにここは店じゃないから、少し手抜きにはなるけどね。でも腕によりをかけて作ったから!召し上がれ~!」
ちゃっかりパーサーみたいな人もいるし。
「すっげ。俺こういうマナー弱いんだけど」
料理もその通りだけど、テーブルには二股のキャンドルが置かれて、雰囲気も申し分ない。
「マナーも大切だけどな、一番大事なのは美味しいものを美味しく食べることさ」
言いながら、彼は目の前でキチンとナイフとフォークを使っている。
見よう見まねで食べて、美味さにまた悶絶した。美味さで死ぬことがあるなら、この旅で俺は何回死んだことだろう。
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