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Ⅰ【荒城の月】 第16話
お前は、俺の騎士 だ。
あたたかな唇が触れた右手の甲を、そっと……
持ち上げて……
「我が剣 となれ」
仮面越し
右手の甲に、唇を落とした。
アキヒトの唇の触れた右手の甲で
銀色の唇が重なる………
薄く笑みを含んで見上げている。
羨望 を込めたアキヒトの熱い眼差しを感じる。
仮面の下で、微笑みを返した。
「俺はΩ解放軍を率いる統帥だ。今は、お前の気持ちに応える事はできない」
だが
「首都・東京を落とした時、お前の気持ちを真剣に考える。
それまで……
俺の騎士になってほしい」
お前なら分かるだろう?
俺の真意を汲み取れ。
騎士 という、特別な絆を俺とお前は結ぶ。
α軍に支配された日本国の首都・東京陥落までの間、お前は俺の騎士だ。
首都・東京を落とせ
(俺が欲しければ)
東京を落として、俺を奪え!
(俺と結ばれたいのだろう?)
αを殲滅 しろ!
我が剣
テンカワ アキヒト
「……御心 のままに」
吐息が耳朶に落ちた。
抱きしめられて、熱っぽい端の掠れた息が囁く。
キスよりも熱く
サァァァー
駆け抜けた風が、湖面に落ちた月影を歪ませる。
(落ちた)
アキヒトは、俺のものだ。
カプリ
耳を甘咬 みしてきたアキヒトの髪を撫でてやる。
期待している……
運命の『番』よりも固い絆を、俺たちは結んだのだ。
運命を超える運命が廻 りはじめる
ゴゴゴゥゴゴオォォーッ
地を這う轟音が轟いた。
(来たか!)
αが易々とop.8-11滋賀県を手放す筈がない。
α-大日本防衛軍が動いた
俺を抱きしめる腕に力を込めて、アキヒトがポケットの小型端末を確かめた。
アラートが鳴らない。
敵のジェネラルが接近すると、アラートの鳴動で報せるのだが。
「新型?」
「あるいは、ステルス機能を搭載している」
水平線の向こう
一機
二機
三、四、十、五十、百……
黒い機影が蟻の群れの如く、増殖する。
《タンホイザー》だ。
藍色の月光が輝いた。α軍ジェネラル《タンホイザー》の火が赤く燃えている。
高速で迫ってくる。
《タンホイザー》の大群
湖水が白く波立った。
「行くぞ!」
「はい!」
ブースを開く。
起動スイッチに指を次々に滑らせる。
グガガガガァァー
わずかな震動と共に、電子の淡い白光が機内を照らしていく。
スタンバイ完了
漆黒の機影に火が灯る。
パチン
最後のスイッチを弾いた。
ガガガガガガガアァァー
「《荒城 弐式 》、出る!」
漆黒の機影が青い火を噴く。
背後、紅い機影が続いて火を散らせた。
無線が入る。
『《憾 》、飛びます!』
闇と紅
二つの機影が空に飛び立つ。
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