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Ⅱ【ローエングリン】 第1話

右舷(みぎげん)よりミサイル接近、上空に回避」 ツッ 『了解』 夜を火が裂く。 敵《タンホイザー》より発射された黒い塊は、六つだ。 直前まで引きつけるんだ。 《タンホイザー》のミサイルだ。 追尾機能を持っている。 レーダーに映って、すぐ動くのは危険だ。 目視できる距離まで、留まれ。 (ここだ) グオオォォォウー 《荒城弐式》のエンジンを下方に噴射する。 遥か 上空へ 半月に向かって《荒城弐式》が飛んだ。 「撃てェッ!」 《荒城弐式》の背後 待ち構えていた(くれなゐ)の機影が、青い(ほむら)を噴いた。 装甲キャノンより撃ち放たれる閃光 赤い火花が散る 全弾的中 標的を逸して高度を失ったミサイルが、空中分解し、破片が琵琶湖に墜落する。 ザブアァァー 黒い水柱が噴き上がった。 『数が多いですね』 アキヒトが通信を送ってきたが、声に焦りはない。 「あぁ」 《タンホイザー》の数は、二人で掃討するには骨が折れる。 (だが………) (むし)ろ、逆ではないか? Ω本隊を叩くには、数が少ない。 既に陣形は整いつつある。 《荒城弐式》、《憾》の発進を見た隊員たちがジェネラルで後についている。 陣を組むに必要なジェネラルは、戦闘体勢に入った。 俺の指示でいつでも陣を組める。 琵琶湖湖畔の本体だけだはない。 αから奪った拠点には、Ω解放軍が駐在している。 増援を呼べば、挟み撃ちだ。 (敵の狙いは、なんだ?) Ω本隊を潰すのが目的ではないのか? なにを狙っている? (しかし) ここは、戦場だ。 敵がいる以上、戦わねば敗北。 敗北は即ち、死を意味する。 迷いは許されぬ。 敵が攻撃を仕掛けてきたなら、返り討つ。 (掃討するのみ) ツッ 無線を弾いた。 「拠点部隊に命じる。二番隊、七番隊、琵琶湖に飛べ。本隊に合流し、α《タンホイザー》を殲滅(せんめつ)する」 セオリー通りの方程式だ。 増援部隊が到着すると同時に《タンホイザー》を挟撃する。 逃げ場のないα軍は全滅だ。 しかし 尚も疑問が残る。 こんな単純な作戦を見抜けないほど、α指揮官は馬鹿ではあるまい。 αにとって、この戦闘は自殺行為だ。 ここまでして、どうして戦う? 戦う意味があるのか? 刹那! 上空より落ちてきたミサイルをかわす。 琵琶湖が濁流と火に包まれた。 水柱が霧となる。 第二派だ。 今度は水面スレスレから急上昇するミサイル 「五月蝿(うるさ)いぞォォーッ!」 かざした《荒城弐式》の右腕に、ガトリングを装填(そうてん)する。 ガトリングが火を噴く。 軌道が逸れたミサイルが、急上昇して、月の袂で弾けた。 爆風が湖面に吹き荒れた。 迷う余地はない。 すべて落とせばいい事だ。 この琵琶湖に α共の命を沈める。 「本隊及びテンカワ アキヒト(ゼロ)番隊に命じる。我が軍は敵α《タンホイザー》掃討作戦に入る」 車懸(くるまが)かりの陣を敷け 「ここはΩ解放軍特区 op.12-9 滋賀県である!Ω解放軍領地にαは不要!」 《タンホイザー》を壊滅させ、αに恐怖を知らしめろ!

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