21 / 288

Ⅱ【ローエングリン】 第3話

増援部隊の到着まで、およそ10分 無線を弾く。 「これより零番隊は本隊と共に戦え。指揮は本隊副隊長」 ツッ 無線のランプが光った。 『はっ』 「お前がとれ」 『承知しました』 ボタンを弾き、通信を切り替える。 「アキヒト」 『はい』 「増援は待たん。一気に叩く」 『了解!』 (さすが飲み込みが早いな) アキヒトは、作戦の意図を理解している。 「増援到着まで、残り9分11秒の(かん)に《タンホイザー》4分の3を落とす」 『足りません』 無線が光った。 『俺とあなたとなら、5分の4の損失を敵に与える事が可能です』 (言ってくれるじゃないか) 「斬り込めるか」 『無論です』 紅の機影が背後より駈ける。 敵の陣形は鶴翼(かくよく) 鶴が翼を広げるが如く。 数にものを言わせて囲い込み、押し潰す戦術だ。 (だが甘いぞ!) その陣形は(もろ)い。 一度崩れたら……… そう。 紅の機影が翼を破る。 陣の右翼だ。 《タンホイザー》が炎を噴き上げて失墜する。 (修正はきかない) 破れた陣を補う時間は与えない。 鶴翼の陣の弱点は、俊敏性に乏しい事だ。 大軍であるがために動きが遅い。 (奇襲は鶴翼が最も不得手とするところだ) 《(ウラミ)》が飛ぶ。 蒼い閃光が、月光を斬った。 両腕に携えた二振りのビームサーベルが、《タンホイザー》の腕を、脚を、胴を、胸を 真っ二つに斬り裂く。 「さすがだ、アキヒト」 《タンホイザー》では《憾》を捕らえられない。 αのジェネラルは劣っている。 否。 Ωのジェネラルが優れているのだ。 崇高な理念を実現するために。 技術に裏打ちされた、磨き抜かれた装甲をα如きに貫けない。 「アキヒト、αを落とせ」 呼び声に応えるかのように。 アキヒトが旋回した。 《タンホイザー》が割れる。 蒼い閃光が魔弾と化して、《タンホイザー》の黒い装甲を撃ち貫く。 黒い鶴の羽が落ちていく。 右翼は死んだな。 敵戦力の5分の4の損失 この数値目標は理想ではない。 現実だ。 (この戦い!) 勝つのでは意味がない。 徹底的に叩く。 Ω解放軍の増援が到着する前に、壊滅状態にする。 想像しろ。 戦力喪失のところに、増援が現れたならば、αはどうなる? ……この戦いは、α-大日本防衛軍本部の知るところとなるさ。 そして深く刻まれるだろう。 恐怖が! 人間の深層に恐怖を刻むのだ。 α共を恐怖させた「血のバレンタイン」の再来として。 戦いの恐怖が深層の淵に刻まれる。 戦争とは、敵戦力を削り損失を与える事が勝利ではない。 (戦争とは、心理戦だ) 精神によりダメージを与え、敵の戦意を喪失させた方が勝利する。 鉄則だよ……… これは、op.9-12 滋賀県を巡る只の小競り合いだ。 しかし、この地方の小さな戦いが後の戦況を左右する。 小さな流れが、巨大な濁流を生み…… (日本を飲み込む) この戦、とるぞ。 勝利の方程式は成立した。 クッ、と喉の奥で笑う。 操縦パネルに指を滑らせた。 背中の四枚の羽が光った。 柘榴色(ザクロイロ)に輝く羽が夜を裂き、《荒城弐式》が急上昇を開始する。 「αは馬鹿か……」 更に上空に昇ると、陣形がよく見える。 破られた右翼を補うために、左翼が囲い込む。包囲して《憾》を落とす策なのだろうが。 左翼が動けば、陣を為さない。 俺ならば右翼を捨てて、左翼のみで陣を建て直すがな。 「自ら陣を壊して、どうする?」 《憾》の後ろには、俺の《荒城弐式》 そして、α別動隊の伏兵と交戦しているΩ本隊がいるのだぞ。 見たところ、Ω本隊の損失は1%未満。 最早、αに勝機はない。 「滅びろよ」 これは戦争だ。 手を緩める気はない。 「さぁ、奏でろ!」 レクイエムを α共! 「お前たちにも飲ませてやろう」 Ω勝利の美酒を 「………………地獄への手向けだ」 起動パネルを押す。 柘榴色の四枚羽が離脱した。 「《(サカヅキ)(イン)》」

ともだちにシェアしよう!