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Ⅲ【トリスタン】 第17話
「勝手に決めて、あなたはッ」
ガッと肩口を掴まれた。
「そんな事を認めると思いますか!」
爪が食い込むくらい、きつく。
強引に振り向かされた。
琥珀の眼が俺を追い詰める。
「冷静になれ」
一笑に伏した。
「これは策だ」
狼狽 える彼の首に腕を回す。
「俺を《憾》に連れていけ」
「……どういう事、ですか?」
「分からないか?アキヒト」
……耳朶に熱い吐息を被せた。
「統帥でない俺を好きにしろ、と言っている」
ドキンッ
アキヒトの左胸で、密着した心音が跳ねる。
「あなたは本気で、統帥を辞めるのですかっ……」
「そうでなければ、こんな事は言わない」
……どうする?ユキト
否、お前に選択肢はない。
《トリスタン》を止めるには、俺と組むしかない。
(俺の傘下に堕ちろ!)
「当然、ユキトは……」
すみれ色の……
淡い左目の眼差しを背後に流す。
「俺を奪いに来るのだろう?」
ピクリっ
俺を抱くアキヒトの腕が微かに震えた。
ユキトのブラックダイヤの視線が揺らめく。
「……そういう事ですか」
「賛成したくない。けれど……俺は賛成せざるを得ないようだな」
アキヒト
ユキト
「理解したか」
「ユキト、α軍を撤退させろ。交渉は決裂だ。しかし、このまま戦闘を続けては双方に犠牲が出る。
α撤退の間、Ωは追撃しない事を条件に、滋賀・琵琶湖畔の戦線を解散する約定を締結して、我々は交渉を終えた」
但し、この約定には抜け道がある……
普通では考えられない事だがな。
約定では、どこまでが撤退なのかを定めていない。
つまり!
(撤退後の再攻撃は、禁止していないのだ)
「《ローエングリン》に長距離砲はあるか?」
「デュナミスを装填している」
完璧じゃないか。
口の端を持ち上げた。
風に揺れた髪が、緋色の右眼を隠す。
必要な駒はそろったぞ。
湖面にささめく浪の音さえも聞こえてきそうな静寂
夜に………
月は散る。
「ユキト、《荒城弐式》を撃ち落とせ」
《ローエングリン》のデュナミスで、ユキト
お前が!
…………………………俺を落とせ。
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