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Ⅲ【トリスタン】 第16話
《トリスタン》投下が刻一刻と迫る……
月がなびいた。
アキヒトに腰を支えられて、星を仰ぐ。
この空から、もうすぐ《トリスタン》が墜 ちてくる。
そうなる前に
「策はある」
「まさか、統帥ッ」
俺の隣の横顔がハッとして狼狽した。
「αに投降する気ですかッ」
フフ……
可愛いよ、お前は
「アキヒト」
星が一つ、流れた。
「その考えは無策というものだ」
月影に喰われた星の軌跡を目で追う。
「俺が投降して《トリスタン》を阻止できたとしても、俺はΩ解放軍の信頼を失う」
そればかりではない。
「αが第二、第三の《トリスタン》投下に踏み切れば、どう対処すればいい?」
「そんな事はさせない!」
「ユキト!お前がそう思っていてもだ。思いがαに届くものか!」
思いが届かないから
理解し合えないから
「お前達は《トリスタン》を投下するのだろう」
………違うか?
「ナツキ……」
「ユキト、お前の考えは甘い」
「しかしっ。Ω解放軍統帥 シルバーリベリオンの投降が《トリスタン》投下を阻止する確実な方法だ」
「投下を阻止するのは、当たり前だ!」
風が………
瞼を切った。
俺の右眼
血色の彼岸花の色彩が、ユキトを捕らえる。
(この眼の中に、お前はいるのか?)
この眼は、もう……
α……
お前もαだから
この眼の痛みを知る事はできても、理解する事はできないんだ。
「我々が望むのは《トリスタン》投下の阻止ではない。
国際禁止兵器《トリスタン》の永久追放だ。
今後、二度とお前達αが《トリスタン》を使おうなどと思わない事を望み、そうさせる手段を講じる。これは我々Ω解放軍の総意だと受け取ってもらって構わない」
「ナツキっ」
「統帥っ」
月が白い蔭を落とす。
「なにを考えているんだ……」
なにを……か?
それこそ愚問だろう。
「俺が考える事はαの殲滅だ」
「ナツキ!」
「但し!」
今は
今だけは……
「αとの交戦よりも《トリスタン》阻止を優先する」
今だけ、お前を憎まない道を許してくれ。
ユキト
お前はαだ。
俺は……お前を好きになってはいけない。
だけど
今だけは、ほかのαのようにお前を憎しみたくない。
どうか《トリスタン》を止めるまでの間……
《トリスタン》の阻止を成功した後は、ほかのα同様に、お前を憎むから。
それまでの間だけ
どうか、平穏を………
「《トリスタン》阻止には、お前の助力が必要だ」
ユキト
「俺に協力しろ」
これよりお前は……
「Ω解放軍統帥 シルバーリベリオンの名に於いて命じる。
α-大日本防衛軍 一尉 シキ ユキト
我が傘下に下れ」
「あなたは何をッ」
反論するアキヒトを制した。
静寂が、沈黙の重さを内包する。
「俺が、うなずくと思うか」
低くうなる声が鼓膜を揺さぶる。
冷えたブラックダイヤが、俺を突き刺す。
「思わない」
だが。
「一時的に我が傘下に下れば、お前の望みを半分叶えよう」
月影が風の音を唄った……
「今この瞬間より、俺ヒダカ ナツキはΩ解放軍統帥職を辞する」
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