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Ⅵ【ファウスト】第16話

「入っていいか?」 「あ、うん」 ここはハルオミさんの部屋でもあり、俺の部屋でもあるんだ。 マルク艦内で、ユキトを招き入れるなんて……変な気分 「どうぞ」 鼓動が…… ドキンッ 跳ね上がった。 心臓がドクドク脈打つ。全身にあふれ来る血流で、体が熱い。 俺……………… 背を向けた体を背後から、ユキトに抱きしめられている。 「ナツキが無事で良かった……ほんとうに良かった」 「ユキト……」 抱き寄せる手に手を重ねる。 ずっと触れたかった温もりだから…… 心配してくれてたんだ。 俺の事…… 俺も……… 「また、お前に会えて良かった」 もう会えない。 覚悟を決めていたけれど。 こうして、再び俺達は巡り会えた。 生き延びる道を選んで良かった。 そう思う。 「………でも、どうしてっ」 こぼれ落ちたのは、喉を刺すような…… 灼熱の囁きが鼓膜を焼いた。 立ちすくむ。 首を振る事もできない。 ごめん……とも言えない。 「兄上と、どうして……」 「ハルオミさんとは……」 互いに声を絞り出していた。 一時間前の俺達とは、もうなにかが違っていた。 「話してくれる?」 重い首を振って、頷いた。 ユキトに聞いてほしい。 聞いてもらった上で、ユキトの気持ちを知りたい。 それで、もしも…… ユキトが心変わりしてしまったら…… 俺はどうやって、理解を求めたらいいのだろう。 身勝手なのは分かっている。 ユキトは、なにも悪くない。 事の発端も 原因も 全部、俺だ。 俺が全て悪い。 でも、お前を諦められないんだ…… ……もう結ばれなくとも、偽りのない気持ちを受け止めてほしい。 俺の身勝手だけど……… 刹那に強く、腕を捕まれた。 俺の目にユキトが映る。 体を反転させられて、俺はユキトを見つめている。 長い睫毛が間近に迫って…… (ユキトっ) 俺の不安で震えた唇を…… 唇が塞いだ。 胸の中に(いだ)かれた。 「安心したよ……拒絶されなくて。無理矢理キスして、ごめんね」 「謝るなっ」 背中に手を回して抱きしめ返す。 指先を伸ばして触れた唇に、唇を重ねた。 俺も……ユキトとキスしたかったんだ。

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