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Ⅵ【ファウスト】第24話
その男は喋らない。
銀の仮面の下の声はない。
「そいつは偽物だ!シルバーリベリオンは俺だッ!」
「ナツキッ、落ち着くんだ!」
スクリーンに向かって駆け出す俺を、ユキトが抱き止める。
「分かってる。分かってるから」
左胸の心臓の鼓動に掌を置いて、耳元に訴える。
「分かってる。お前がΩ解放軍 統帥 シルバーリベリオンだ」
「………………じゃあ、あいつは何者なんだ」
銀の仮面で顔を隠した男
髪の色も、髪型も、背格好もまるで同じ。
スクリーンの中にいる、もう一人の俺……
奴は、俺そのものじゃないかッ
録画じゃない。
これまでの戦闘において入手した画像を、放送している可能性はゼロだ。
「リアルタイム」
画面の右下に表示がある。
現在、司令室で行われているやり取りが、そのまま転送されている。
『《トリスタン》を渡せ』
偽物の仮面の声はない。
机のキーボードを叩いて、画面に文字を表示させている。
『さもなくば、政府要人を殺害する』
「できるのか?君に」
画面 左半分が切り替わった。
ハルオミさんだ。
マルク最高責任者として、日本国 副総理 ハルオミさんが交渉に臨んでいる。
また画面が切り替わる。
これは……
首都 東京だ。
東京を上空から映している。
ズダダドオォォォーンッ!!
紅蓮の火柱が噴き上がり、真っ黒な煙が夜明けの空によじ登る。
国会議事堂が燃えている。
「なにを考えているッ!」
この男はッ
これは殺人!
無差別殺戮だ!
「テロ行為だよ」
画面の中で、ハルオミさんが苦悶をにじませる。
『実に残念だ。国会会期中ならば、今の爆発で不要な議員共を大量に始末できたものを』
「国会議事堂 同様、我々も爆殺できる……と言いたいのかい?」
『理解が早くて助かるよ。貴様らの居所は把握している。
《トリスタン》を渡せ。逆らえば政府要人を一人ずつ暗殺する』
「こんなに派手な爆発を起こしては『暗殺』とは言えないね」
『黙れ。命が惜しくはないのか』
「暗殺対象の政府要人の中に、私も入っているのかな」
『無論だ。売国奴 シキ ハルオミ』
「……言うねぇ」
額に手を当てたハルオミさんの口角が、不敵に吊り上がった。
「すると、マルクにも爆弾が仕掛けてあるのか」
『貴様には誰が敵で、誰が味方か分かるまい』
「なるほど……」
カツンッ
右手の爪が机を叩いた。
『交渉は決裂だ。《トリスタン》は渡さない。殺したければ殺せ』
ハルオミさん……正気なのか……
(東京が壊滅するぞ)
「どうやってΩの君がαを懐柔したのかは知らないが。シルバーリベリオン、黒幕は表に出ちゃいけないよ。
……チェックメイトだ」
不遜な口の端 がフッと上がる。
「君に私は殺せない」
黒の支配者 が、銀の叛逆者 に喧嘩を売った……
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