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Ⅵ【ファウスト】第53話

正義と悪は表裏一体だ。 無差別破壊・国際禁止兵器である《トリスタン》の悪さえも、テロを止める大義名分が付けば、正義になる。 悪の兵器が正義に転ずる。 戦争の恐ろしい副産物だ。 正義と悪の定義ですら歪めてしまう。 歪んだ世界で、俺達はどう生きればいい? ………それでも生きなくてはならないんだ。 今日を生きなくては、明日を迎えられないから。 皮肉だな。 ユキト…… 敵同士の俺達が、テロという共通の敵によって結びつくなんて。 αのαに対する反乱 テロリズムの無差別殺戮による最も卑劣な手段によるクーデターが勃発した。 Ωの俺が、αの敵を倒そうとしている。 (《トリスタン》投下阻止の先にあるのは、貴様だ) ………テンカワ マコト! 「統帥」 背中から囁く温もりに頷いた。 あぁ、もう大丈夫だ。 大丈夫だよ、アキヒト。 俺は、お前の父親を討つ。 それでも、こうして俺を抱きしめてくれるか? 否 その時は……俺が、お前を抱きしめるよ。 お前は、俺の騎士 大切な家族なんだから 「アキヒト。シルバーリベリオンの名において命じる。我が剣よ、我を守れ」 「Yes(イエス), your(ユア) Majesty(マジェスティ).」 ハルオミさん…… 俺は、あなたに背を向けて歩き出す。 うなじに触れるだけのキスが降りた。 「俺は、あなたの未来を(ひら)く剣です」 背中の手がお腹をさすった。 「いつか子供が生まれたら……俺はあなたと、その子の騎士になりたい」 お腹の上で、掌が円を描く。 「俺の未来にずっといてください」 暖かな手が頬を撫でた。 「あなたには、俺がいます」 「ナツキ。分かっていると思うけど、兄上は一筋縄じゃいかない」 ユキトの手が、俺の手をそっと携えた。 「俺を頼るんだよ」 銀の仮面を置いて…… 「兄上は、運命のαだ」 お前は……… 「運命と戦う事になる」 逞しい(かいな)が俺を抱き寄せた。 「大丈夫、俺もナツキの運命のαだ」 吐息が触れた耳朶が熱を帯びる。 「一緒に戦おう。運命と……」 運命のα と 運命のα 「ナツキの運命を廻すのは俺だよ」 俺を(いだ)く腕に力を込めた。 「お前の運命は渡さない」 「俺が統帥をお守りします」 ユキトとアキヒト 二人の体温に抱きしめられている…… ドクン、ドクン、ドクン 三つの鼓動が重なって、止まった時が動き出す。 グザザザザァー 不意に、どこからともなく鈍い奇声が放たれた。 立っている床が、グニャリと曲がる感覚に襲われる。 「統帥、俺に掴まって」 「ナツキ、大丈夫?」 二人が俺を支えてくれる。 鼓膜の奥を揺るがす空気の振動が止まない。 「……駿河湾に入ったのか」 マルクが浮上を開始した。

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