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Ⅵ【ファウスト】第61話
『迎えに行くよ』
淡い光に浮かぶモニターが映した、ユキトの手
『ナツキを迎えに行く』
その手がモニターに向かって伸びた。
『それまで無茶はしないでほしい。絶対に』
モニターの画面を挟んで、手と手が重なった。
『政府専用機にジェネラルを駆逐する戦力はない。俺が行くまで上空で待機だ。
《タンホイザー》射程圏内には入るな』
「分かった」
『すぐに行くから』
「待っている」
ブラックダイヤの瞳が頷いた。
戦局を覆そう。
ユキト、そしてアキヒトが加わればできるさ。
ハッチが開いたらユキトの《ローエングリン》と、アキヒトの《タンホイザー》で、テロリストのジェネラルからマルクを防衛しつつ、隙を見て西岸に飛ぶ。
俺達で焼津港を奪取だ。
通信が切れて、黒く落ちた画面
モニター越しに触れた。ユキトの手は、俺の手を掴んでくれた。
握った手を離すな。
大事なものは、手離しちゃいけないんだ。
俺はもう、お前の手を離さない。
テロによるαのクーデター。
α同士の潰し合いだなんて、最高のエンターテイメントじゃないか。
高笑いして静観だ。
シルバーリベリオンならば、そうしていた。
だが、俺は……
「シルバーリベリオンじゃない」
俺は……
「シキ ナツキなんだ」
仮面を外して素顔になった俺は、新日本国建国よりも。
お前達を優先する。
ユキト、アキヒト、ハルオミさん……
お前達のいる未来がほしい。
お前達のいる明日がほしいよ。
αのいない世界を創成するシルバーリベリオンの俺は、矛盾している。
それでも、欲しいと願うんだ。
願う未来に手を伸ばす。
大事なものは手離しちゃいけないから。
掴む。
(この手で)
俺達の明日を!
「I have control .」
操縦桿を握った。
求める事は罪じゃない。生きる人間の権利だ。
ハルオミさん、あなたも求めてくれ。
諦めるな!
あなたは生きている。
生きて明日を求めてくれ。
通信ボタンを押した。
「マルク通信室、応答願う」
『こちらマルク通信室』
「シキ ナツキだ。俺は政府専用機を操縦している。これより、左舷に迫る敵《ジェネラル》撹乱のための飛行に入る。
俺が隊列を崩す。敵《ジェネラル》の統率がなくなったところを狙い撃て」
『ですがッ、危険です!シキ夫人!』
「危険なのは貴様らの命だ!」
バンッ
パネルを叩くと同時に、通信室が押し黙った。
「指示に従え。俺は日本国副総理 シキ ハルオミの妻、シキ ナツキだ」
『Alles klar .』
通信ボタンを切った指先を見つめて、自嘲の笑みを浮かべた。
「俺がαを心配をするとはな」
やがて摘み取る命だが、今は生きろ。
俺が生かしてやる。
「すまないな、ユキト……」
上空待機の約束は守れそうにない。
(俺は、自分にできる事をするよ)
無茶はしないさ。
お前に会わなくちゃいけないからな。
また手を繋ごう。
いつも抱きしめられてばかりの俺だから、今度は俺からお前を、ぎゅっと抱きしめてやるよ。
「行くぞ!」
操縦桿を倒した刹那に、通信ランプが光った。
マルク通信室か?
……『日本国民諸君、新君誕生を祝え』
通信コード00O
通信源不明
音声のみの通信だ。
……『日本国民諸君、新君誕生を祝え』
この通信は!!
……『本日、旧体制は我が前に屈服し、日本国に新君が誕生する』
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