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Ⅵ【ファウスト】第63話

「狙い撃つ!」 爆撃するのは《タンホイザー》頭部モニターだ。 戦闘機でない以上、戦術は限られる。 (ならばっ) 爆音が轟き、ジェネラル頭部が大破する。 ミサイルでモニターを破壊する。 視覚を壊せば戦えない。 戦線離脱せざるを得なくなる。 フッ…… 思わず、ほくそ笑んだ。 (この機体、使えるじゃないか) 予想以上に機敏に動く。敏捷性に富んでいる。小回りもきく。 機動力だけなら、間違いなく最新鋭の戦闘機に匹敵する。 政府要人を乗せるたかが輸送機と、見くびっていたが。 「悪かったな」 操縦桿に向けて、笑みをこぼした。 「お前は貨物なんかじゃないよ」 急降下 《タンホイザー》には、この機影が消えたかに見えた筈だ。 テロリスト共、お前達を撹乱してやるよ。 「左翼を砕く!」 銀翼に波飛沫(なみしぶき)(きら)めいた。 海面スレスレを擦り抜ける。 急上昇だ。《タンホイザー》の頭上、制空権を取った。 「翼を叩き落とす!」 《タンホイザー》頭部に、ミサイルがめり込む。 爆発が起こり、錯乱した敵ジェネラルを巻き込んで失墜する。 数機が波間に落ちて、水柱が噴き上がった。 思った通りだ。 こいつらは軍隊ではない。 寄せ集めの烏合の衆だ。 「脆いッ」 崩れたら立て直す事ができない。 「墜ちろ!」 お前達、全員墜としてやる! 「射出ON!」 出力MAX 「ファイヤー!」 虚空を裂いたミサイルが、ジェネラル頭部モニターに命中した。 途端、蜘蛛の子を散らしたように、周囲の《タンホイザー》が、ミサイルを受けた機体から離れた。 ズガンッ 鈍い怒声が響いた。 「こいつらッ」 ウィングをショットガンで貫かれた《タンホイザー》が海に落ちる。 撃ったのは同じ《タンホイザー》だ。 戦力にならないと判断するや撃ち落としたのだ。 味方の機体を…… 「狂っているッ」 《タンホイザー》が飛んだ。 銀翼を狙っている。 《タンホイザー》から発射されたミサイルが迫る。 かわさねば機体は爆発して、海の中だ。 加速して回避した場所に《タンホイザー》が待ち受ける。 朝日にサーベルが光った。 斬り落とすかッ 「………………だが」 唇をフッと吊り上げた。 「同じ策を使うと思ったかァッ!」 操縦桿を引く。 スイッチを弾いた。 無線は通信室を介して、マルク砲撃部隊に繋がっている。 ………お前達を落とすのは、俺じゃない。 「()ェェーッ!」 鋼鉄の巨砲(おおづつ)が火を噴いた。 業火に飲まれた《タンホイザー》が空から消えた。

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