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Ⅵ【ファウスト】第70話

『君の勝利への布石は不完全だよ』 なぜならば。 『私がいない』 指で梳いた前髪を、後ろに掻き上げる 両目に宿る蒼い(ほむら) 『埋めようじゃないか。君の足りない場所を私で。 見せつけてやろう。私達のつくる完全勝利を』 さぁ……… 『夫婦共同作業の始まりだよ』 不遜な口角が吊り上がった。 あなたは、俺を…… 「ハルオミさんっ」 俺を…… 「まだ……」 『君は私の妻だよ』 モニターの中の蒼いサファイアを、すっと細めた。 『手離すつもりはない』 揺るぎない蒼が、そこにある。 『戦力だからじゃない。戦略的な必要性でもない。 妻だからだよ』 「でもっ!」 あなたは俺の正体を知ってるんだろう! シュヴァルツ カイザーと、シルバーリベリオンだ。 日本国 副総理と、Ω解放軍 統帥 政治家と戦犯 αとΩ…… 俺達の運命は交わらない。 交われない。 手を伸ばすけれど、触れたのはモニターの冷たい感触だった。 『君はもう私を操っているよ』 硬質のモニターの向こうで、唇が柔らかに笑んでいた。 『君はこの世界で唯一、シュヴァルツ カイザーの思考を操る妻なんだよ。 君にしか為し得ない戦略を描け。私を使って描くんだよ。この国に』 クスリ…… 『………………国家反逆罪がなんだって言うんだい?』 誰にも悟らせない声が微かに、モニターにノイズをつくった。 けれども、俺は確かに聞いた。 あなたの声を。 あなたはっ。 あなたの未来は、なにを語るんだッ あなたは将来、日本を敵に回すのか? 俺達の共通の敵 テロ組織『明け染めの星』 テロ組織の首領『今世神君(こんぜしんくん)』テンカワ マコト この先にある未来に、あなたなにを見ているんだッ? 『君との未来だよ』 弧を描いた口許。 『君との幸せな家庭を夢見る私は、可笑しいかい?』 ……ハハハハハ 思わず。 声を出して笑ってしまった。 あなたは、戦場でなにを言い出すんだ。 『……やっと笑ったね。私の戦略通りだ』 こぼした微笑みを、指の腹で拭い取る。唇に押し当てて…… 『出ていった妻を迎えに行く心境だ。新婚早々、別居なんてごめんだよ』 「遅いな、迎えに来るのが」 『こうして君の前にいるじゃないか』 君を迎え来たんだよ。 ナツキ……… 君は戦争の首謀者だ。 αに対し、戦争を仕掛けたΩの戦犯だ。 この戦いの先にあるのが、別離であっても。 今は夫婦でいようじゃないか。 『夫婦喧嘩は犬も食わないからね。やり直そうか。戦術の建て直しだ』

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