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Ⅹ【シキ ハルオミ】第3話
……生きて、戦ってくれ。と……
あなたの言った言葉が、鮮烈に甦る。
「あなたは最初からっ」
こうなる事を見通していたんだ。
サタンの母による高波が押し寄せた時も、あなたは俺に『生きて、戦ってくれ』と、そう言った。
俺に命じた。
あれは、あなたの願いだったんだ。
「生きて、戦ってくれ」……
あなたの俺への呪いの言葉だ……
抗う事のできない呪縛を、あなたは俺にかけたんだ。
………勝手だ。
あなたは身勝手すぎる。
身勝手で、優しすぎる………
『卑怯なんだよ、私は………』
モニターの中で微笑んだあなたの右手が、指鉄砲をつくっていた。
『君の涙を拭う事もできずに』
深いサファイアが少し憂う。
『君にプロポーズした夜のように、銃口で君を脅して……』
卑怯な夫になる。
「あなたは、いつもそうやって!」
命を盾に、俺に選択を迫るんだ。
今も、あなたの銃口はあなた自身を捕らえている。
見えない銃口で、命を的にしている……
『あの日の夜、君に引き金を預けたんだ。私の命は、あの夜に君の物になったんだよ』
「だったら、どうしてっ。俺の物なのに、あなたを俺の自由にできないんだッ」
『君の物だよ。だから、こうして私は君を守る事ができる』
嘘だ!
詭弁だ!
あなたは俺のものなのに、あなたの鼓動が手の中から、こぼれ落ちていく。
「いなくなるじゃないかッ!あなたは、俺を一人にして」
『君は一人じゃないだろう。ユキトやアキヒト君がいる』
「一人だよ!あなたは俺の心を持って、どこかへ行くんだ。
心のなくなった俺は、あなたを探すよ。
あなたが埋めてくれる筈だった空白を抱えたまま、ずっとずっと探すよ。
でも空白は埋まらない。あなたしか埋められない空白だから。
俺は埋められない空白を抱えて、ずっとずっと、あなたを探し続けるんだ。一人きりで、ずっとずっと」
『ナツキ……』
紺碧の双瞳がわずかに揺らめいた。
『私と夫婦になった事を後悔しているのか』
頭 を振る。
何度も何度も振る。
「後悔したくない。諦めたくない。俺が欲しいのは日本の未来じゃない。
あなたなんだ!
あなただけが欲しい!」
あなたは、どうしてっ
「自分の明日を諦めるんだっ。あなたは生きている。生きてるんだよ。
あなたこそ、戦って生きるべきだろう。生きて戦わなければダメだ!」
バンッ
操作パネルを叩いた。
プログラムがロックされている。
だが。
システムには安全装置が必ず組み込まれている。
解除方法が絶対にある筈だ。
俺が見つける。
プログラムを解除する。
《ファウスト》は必ず動く。
俺はシルバーリべリオンだ。
シュヴァルツ カイザー………
俺はあなたを唯一操る事ができる、世界にたった一人の妻だ!
『無駄だよ、ナツキ。通常のプログラムならば、君に解除できるだろう。
しかし今、君が乗っているのは、シキ ハルオミ専用機《ファウスト》だ。
君は、私の中にいる。シュヴァルツ カイザーの中にね。
どんなに足掻こうとも、捕らえた君を離さないよ』
私は、君を………
『愛しているから、離さない』
俺も、あなたを………
『愛しているから』
あなたの………
俺の………
「俺達の愛情を、あなたを諦める理由にしたくないんだっ!!」
刹那に、光で射貫かれたかの衝撃が瞳孔に刺した。
サファイアの眼に宿る、暁の輝き……
『君は、やはり私の妻だよ』
形良い唇が不敵に吊り上がる。
『言葉だけじゃ満足しないんだね……
だったら、体に叩き込んであげるよ。
君は、私に屈服するんだ』
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