1 / 10
第1話
「お疲れー」
「おつかれ…え?」
いつものように親友との週末の飲み会。馴染みの店の前で待ち合わせた親友を見て、江坂は首をひねった。
「三国…何その格好」
親友の三国は病院務めで、理学療法士をしている。病院内ではケーシー姿なので、通勤は不潔感がない程度のラフな格好をしている。
仕事終わりに待ち合わせるといつもチノパンにシャツといった格好が多いのだが、本日はスーツをビシッと着て、ネクタイもしっかりしめて、ポケットにはチーフなど入れて、いつもとは違うフォーマルなスタイルだ。
店はいつもの創作料理屋だし、居酒屋では無いがそんなかしこまった服装をしなければならない店でもない。
たしかに以前、学会帰りという時は、スーツの時があったけれど…もっとリクルートスーツのようなもので、そんなオシャレなものでもなかった。そんな格好の三国を見るのは…と考えて、大学の共通の友人の結婚式の時以来か?と思った。
結婚式帰り?こんな平日に?と頭を悩ませていると三国に「まぁいいから入ろうぜ」と促された。
いつもは仕事終りで適当に集まり先に来た方が注文して待っているというのがだいたいの流れなのだが、今日は三国の「19時に!絶対!」という号令の元、店の前で待ち合わせ。
「三国様。いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
にこりと馴染みの店員に案内されて、店の奥へ通された。そこは個室になっていて、いつもとは少し違う雰囲気に江坂の頭のはてなマークは増えていくばかり。
「なんで個室?」
「まぁ…いいから」
いつもは沢山並んでるテーブル席だ。この店にこんな個室の席があった事を今日初めて知った。
「え?何?今日?」
「まぁまぁ…とにかく食おうぜ」
三国はニコニコとメニューを選んでいく。普段から笑顔が多い奴だが、今日は特に気持ち悪いほどの笑顔だ。
「まじで気持ち悪いんだけど…?」
「気にすんなって。江坂何食べる?」
「あーうん…ほうれん草のサラダと…」
江坂は少し引っかりながらもお気に入りのメニューを頼んでいく。
うんうんと三国は頷きながら、いつものメニューを頼んで、「デザートはさつまいものクリームパイだろ?お前好きだもんな」と締めくくった。
「もうデザートかよ!気ぃはえーな」
はははと笑いながらビールを乾杯する頃には微かな違和感など頭の片隅へ追いやられていた。
ともだちにシェアしよう!