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第10話(後日談)

次の日、江坂は三国に貰ったガーベラの花束を嬉しそうに眺めたり、写真を撮ったりしていた。自宅に戻ったら花瓶に差し替えて長持ちする方法を検索しようと考えていた。 「三国って案外マメなんだな。こんな風にするタイプなんて想像もしてなかった。」 江坂は笑顔で花束を持って、匂いを嗅いでいる様子に三国も笑みが零れた 「あーそんなちゃんとするつもり無かったんだけど…あの店の店員さんがさ」 「え?てかあのプレート刺してたって事は店員さんにバレてんじゃねーか俺らのこと」 江坂は昨日は唖然としていて気付かなかったけれどよく考えてみれば非常に恥ずかしい事に気づいてしまった。 「あーうん。あの店でお前待ってること多いからさ。結構喋ってたのよ待ってる間」 三国は少し気まずそうに頭をかいている。 業種の違いで、江坂の退社時間の方が遅い方が多い。急な変更や、納期の関係や、パソコンのエラーなどで約束の時間からかなり遅れるのも少なからずあった。 「その時に流れで店員さんに付き合ってるって言って…」 「どんな流れ!?」 三国によると、いつも仲良いですねと言われて曖昧に笑っていたらしい。するとコソッともしかして付き合ってらっしゃるんですか?と聞かれたのだ。 「え?なんで?」 「彼女にも同性の恋人がいるんだって。だからそんな雰囲気が良く分かるって言ってた」 「なるほど…そんなもんなのか?」 「らしいよ。それからちょくちょく相談に乗ってもらってた。店員さんっていう距離感がちょうど良くて」 「相談って…」 「プロポーズしようかと思ってるとか」 「まじかよ」 急にあの店に行くのが恥ずかしくなった。いや、もうバレているのだから一緒だが…。 「勝手にごめん。なかなか人に言える話じゃ無かったから」 たしかに職場の人や、友人に急に男にプロポーズしたいんですというのはなかなかハードルが高いだろう。その点、同性愛に理解がある店員の方が気軽に相談出来たのだろう。 「そしたら、それはちゃんとキメた方がいいでしょって言われて」 「なんで?」 相手が女子の方がプロポーズをしっかり豪華にした方がいいのは分かるが、男相手に?まぁ…結果、嬉しかったけれど。 「男女だったら結婚という制度が整っていて、世間が勝手にケジメをくれるけど、同性同士はそうじゃない。逆風の方が多い世の中だから。覚悟をちゃんと形にした方がいいって。その思い出でまた二人で頑張る原動力になるからってさ」 「た…たしかに」 ガーベラの花束を見つめながら言った。たしかに喧嘩しても昨日の事を思い出せばまた笑顔になれそうだ。自分の為に色々考えてくれたと思うと嬉しい。思わず昨日の緊張していた三国の顔を思い出して笑った。 三国は江坂の隣に座り、花束を見つめる江坂を見ていた。こんなに喜んでくれたなら頑張った甲斐があったというものだ。 「でもよく覚えてたな。この花、俺がキレイって言ったやつだろ?」 「うん。プロポーズといえばバラ?とか思ってたんだけど花屋に行ったら目について思い出した。ガーベラって言うらしいよ」 「へー」 「花言葉も良かったから…」 「ん?花言葉?」 三国はごつい見た目に反して案外繊細な気遣いな持ち主らしい。 「熱愛とかもあるらしいけど…赤いガーベラは、いつも前進 なんだってさ」 「前進」 「うん。二人で、しっかり前へ進みたかったから。これは覚悟を決めた印だから」 想像以上に色々と考えてくれていた三国に胸がぎゅっと締め付けられるほど感動してしまい、隣の三国に抱きついた。 「俺さ、羨ましかったんだ。あの時の花束を貰った女性」 「ん?」 「臆面もなく可愛いって言われて、毅をあんな笑顔にする女性が。めっちゃ嫉妬したんだ」 それを聞いた三国はいきなり笑い出した。 「はははは。まじで?」 「笑うなよ」 江坂は恥ずかしくなって体を離し、唇を尖らしている。 「そういや、付き合ってるのかとか聞いてたな」 昨日、あのプロポーズの相手と勘違いしてたしか言った気がする。三国はまだ笑って、江坂の頭をガシガシと撫でた。 「あのな。いくら可愛くても6歳の女の子とは付き合えねーよ。犯罪」 「6歳!?」 「そう」 「ちっちゃいって小柄って事じゃなくて年齢?」 「可愛いって子供だからな」 「な…なんだ」 江坂は脱力して、隣の三国にもたれかかった。三国は可笑しそうに江坂の頭を撫でている。 「6歳の女の子に嫉妬って…俺、だせぇ」 「ははは。そんなに思ってくれてるって分かって嬉しいわ」 話せばなんて無い事。口に出さなかったから変に自分の中でこじれてしまったのだ。 照れている江坂に三国は唇を寄せた。江坂も応えるように目をつぶって抱きしめて唇を合わせた。 これからはなんでも話しそう。 絡まりあった糸も二人ならなんてこと無く解ける。 時に喧嘩をする時もあるかもしれない。 そんな時はガーベラの花束を買って帰ろう。 二人でずっと一緒にいようと誓ったあの日を思い出して。 そして、また二人でひとつ前へ進もう。

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