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 日向が出掛けたあと、ポロポロと弁当の注文が入り始めてホッとした逸也だったが、なんとなく気分はスッキリしないままだっだ。高見沢を見かけたことが不穏な影となってトキタを覆っているようで、幸恵の家に遊びに行かせたことを早くも後悔してしまっている。  調理をしている日向はいつも真剣で楽しそうで、それなのに仕事を辞めてホームレスのようになってしまったのは、高見沢が関係している気がしてならない。  遠く離れた街から偶然この町の営業担当になるなんてことがあるのだろうか。もし高見沢が日向を追いかけてきたのだとしたら。 「もしそうだとしたら、どうやって居場所を突き止めた?」  どこかの調査会社にでも頼んだのか。着ていたスーツはピタリと体のサイズに合わせたオーダー品に見えたし、袖口から覗いていたのはフランクミュラーの新作だった。金回りがいいのならそういった手段もあるのだろう。けれどもガチガチのハイブランドは、決して大手ではない会社の若い営業マンが身に付けるにしてはいささか不釣り合いでしっくりこない。

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