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第3話

 そのあとも、数人の手下に犯された。  あの粉末のせいで性欲は際限なく、苦痛も感じない。  裂けたアナルから血を流そうとも、溢れるほど精液を腹に出されても、肉体は快楽に昂った。  その姿は、仲間たちを幻滅させるには充分だった。  そうして夜も更けた頃、やっと、本来の取引が始まった。  やつらの、雌になる。  今度こそ、本当に。  もう迷いなどなかった。  諦めたとか腹を括ったと言うよりは、単純にもう、悩み事が出来るだけの思考力もなく、何より体が、疼いてどうしようもない。  あれから度々、粉末を撒き散らされている。遂に先ほどは、尻の中に直接塗り込められもした。  それは既に、発情などという生易しい欲求ではなかった。  性欲にも飢餓感があるのだと知った。 「っは、ぁあ、ぁっ……」  這い蹲って、腰を振る。  涎を垂らしながら、媚びる。 「ハアハア喘いでるだけじゃ分かんねぇよ。どうすんだ? 言ってみな?」  言葉を捻り出すのも難しくなっていた。  でも言わなくては、与えられない。  考えるのはこの欲を満たす事ばかりで、仲間の安否など、頭になかった。 「っ、お、れを……メスに、して……ぐずぐずのアナ、使って……! 犯して……ッ!」  ニヤニヤと下卑たいくつもの目が見下ろしている。  なのになかなか行動には出てくれない。もどかしい。 「はや、くぅ……っ、ぁ、あ……ッ、チンポ、欲しいぃ……っ」  鼻がおかしくなるほどの精液と、血の臭い。体臭。汗。息遣い。それから、得体の知れない、薬。  それらは強靭な精神をも、容易く破壊した。  腹の奥で吐き出される熱い体液。あの感覚。初めて味わった、言い知れぬ満足感。  そんな馬鹿な事がある筈がないと、思っていた事すら、もう思い出せない。 「欲しいか? これが」  そのうち漸く、男のうち1匹が、ゆったりとした下衣から性器を取り出した。  反り返ったそれは、確かに自分たちと異なる形状を持っていた。  己のものより遥かに大きく、太さは均一で、けれど根元だけが、瘤のように膨れている。色も、大分黒っぽい。  手触りこそつるりとしていそうだが、あれほど長大なものを入れられたなら、この身はまたしても傷を負うだろう。  分かってはいても、欲望は止められなかった。 「欲しい……いっぱい、欲しい……っ、腹ん中、そのデカイので、掻き回して……ッ」  それどころか、まだ経験のない形をしたペニスが、己の腹の中で暴れたなら、どんな心地だろうと目を輝かせてしまう始末。  本来なら不快な筈の他種族の、それも一層臭いの強い性器を鼻面に突きつけられているというのに、むしろ体は火照る一方だった。 「そうかそうかァ。じゃあ雌にして貰えるように、精々尽くせよ」 「ん、……」  相手の言葉など、碌に聞いていなかった。  ただ我慢出来ず、なんの躊躇もなく目の前のペニスにしゃぶりついた。  同族相手にもしなかった行為を、進んでやってのける。大き過ぎて根元までは咥えられず、先端を中心に舐めしゃぶり、上顎を擦りつける。 「へぇ……舌の感触も違ぇのか……にしても、随分大人しくなっちまって。おい、てめぇの緩い穴、お仲間たちが蔑んだ目で見てるぜ?」 「んっ、んんっ」  知らない、とでも言うように口淫に没頭する。口の中を性器が出入りするだけでも、淡い快感に繋がった。  そんな態度を、勝者たちも良しとしたらしかった。  別の男が、背後へと回る。 「それじゃあ、そんなにチンポが好きなら、両方で味わったらいい」 「んぅっ!」 「おっと、噛むなよ? 噛んだらてめぇの粗チン、磨り潰すからな」 「ぁ……ぅう、ぁ」  賢さの欠片もない、曖昧で愚鈍な返事をしているうちに、疼いていたアナルに他者の体温を感じた。  それだけでまた、とっくに出尽くしている筈の精液がぴゅくっと漏れた。 「お前がどれほどの雌なのか、確かめてやるよ」 「んんぅぅぅ……ッ! ぷはっ……! ァ、アア……ッ!」  すぐに、ペニスをしゃぶっていられなくなった。  同族のものとは、全く違う。  肉を抉るのではなく、力強く、押し広げられていく。 「ふ、ぁ、ああっ……入って、るぅ……ッ、ぁあッ……!」  思わず、見たままである感想が口をついて出た。  さっきまでは、穿つとか貫かれるとか、そういった鋭利な印象が強かった。  だがこの大型の獣人たちは、ずっしりとした重みを伴って、羞恥も矜持も力ずくで押し退けて開いていくようだった。  これは、堪らない。 「なぁに口離してんだ。ちゃんと咥えろ。雌になりてぇんだろ?」 「ん、ぅう」 「チッ……牙が当たってんだよ……」  言われるがまま口を開くも、こうも圧倒的なものに犯されている最中では、コントロールが利かない。  ただでさえ鋭い歯の、取り分け笑った時に両端に見える2本は、鋭く長い。  その上に体格差のせいで当然、口自体も小さく、この状況で牙を当てないでいる事は、不可能に近かった。 「……仕方ねえ」  眼前の男はペニスを遠ざけた。  無意識に噛みつかれては堪らないから、だから離れたのだと考えた。だから、妥協したのだと。  しかし相手は、妥協を許すような寛大さは持っていなかった。 「ぅあっ……」  うしろはうしろで容赦はなく、同族と交わっていた時よりもずっと深いところまで、暴かれ始めた。  腹が破れてしまいそうな恐怖すらも、興奮材料だった。その感覚に、恍惚の声を漏らした時だった。 「ふぁぁ……っガ、ハッ……!?」  一瞬だった。  馬鹿になった体でも、痛みと分かるものが首領を襲った。  何が起きたのか、把握する前に、再び同じ痛みが走る。 「ガ、ァアアッ……!!」  何をされたのか、それでも、分からなかった。  ただ、そうこうされているうちに、背後の男は、長大なペニスを見事に根元まで収めていた。 「お、偉い偉い。こっちはちゃんと全部、咥え込めたな」  けらけらと笑いながら、ほら、と下腹部を臀部に擦りつけた。  素肌を擦る体毛も、同族とは違っていた。新しい感覚にも、気持ち良さを覚えた。  ただ少し腰を揺すられるだけでも、体格差のせいで首領の体は容易くぐらつく。反動でよろけ俯くと、ぼたぼたと濃い液体が垂れた。  ……血だ。  無理に拡げられた尻からならともかく、どうして真下に…… 「これでこっちも、さっきより深く咥えられんだろ?」  答えの出ないうちに上向かされ、すかさずペニスを捻じ込まれる。  いきなり喉奥を突かれ噎せそうになり、噛みつくまいと必死で堪えるも、何かが妙だ。  口の中が、血でいっぱいだ。 「ああ、邪魔なもんは取っ払ってやったぞ」  苦し気に眉間に皺を寄せていると、目の前を何かが落ちていった。  白い、小さな、そして赤く、ふたつ……――――  それ、は。 「にしても、案外簡単に折れるモンだな。全部折られねぇように、精々頑張れよ」 「んぅっ! ぅぶ、ぅううッ……!」  本格的な律動が始まった。  容赦なく喉を犯し、好きに揺さぶられる。背後からも、ぐじゅぐじゅと湿っぽい何かが潰れるような音が聞こえた。  牙を、折られた。  折られた事にも、気付かないうちに。  馬鹿みたいに、喘いでいるうちに。  いよいよ、首領でもなんでもいられなくなった。これではもう、狩りすら出来ない。  ……ああ、いいのか。狩りなんてもう、出来なくても。  だってもう、ここで。 「さあ俺たちの匂いで上書きしてやる。喜べよッ……!」  多量の精液が、どば、と口腔に溢れる。  喉に、口に、頬に鼻に顔に、無遠慮にかけられていく。  びしゃびしゃと音が聞こえるようだった。それほどに多く、濃い。 「腹にもたっぷり注いでやるよ……!」  少し遅れて、あの、腹の底が熱くなる快感が小柄な体を襲った。  顔に出されたこれと、同じ量を出されているのだろうか。こんなに深く。こんなにたくさん。  ああ、凄い。  たった1匹で、これ。  やつらが赤い性器を、粗末だなんだと嘯くわけだ。  ああ、そうか、そう……確かになぁ。 「は……はは……」  いつの間にか、自分も笑っていた。  憤る事も、仲間の無事を慮る事も、頭になかった。  気持ちが良かった。牙を折られ、顔面に精液を浴びせられ、腹の深くまで犯され、そこにも精液をぶちまけられる事が。  気持ちが良かった。  他の、大事だった事よりも。 「呆けてる暇ねぇぞ? 出しても、まだ当分抜けねぇからな」 「その分は口と手も使わねぇと、夜が明けちまうからな」 「なるんだろ? 雌に、さ」  嘲笑も、もう、腹は立たなかった。  ただ、笑い返した。 「ははっ……最高だな」  首領だった男は、いつ仲間が解放されたのか、気付く事はなかった。  自慢の長い尻尾は、ぼろぼろだった。  碌に手入れもされず毛並みは悪く、何より酷いのは、歪にあちこち曲がってしまっている事だ。  体躯でも体力でも勝る獣人たちに、力任せに掴まれるせいで度々折れ、曲がったまま固まってしまった。  別に、気にしてなどいない。  それどころか、自身の尻尾で自慰を命じられた時、折れた部分がいいところに当たって悦んだくらいだ。  あれからというもの、正気でいられる時間は殆どなかった。  時々気紛れのように薬を断たれ、反抗的な態度で周囲を楽しませては、終いには自ら薬と快楽を強請った。  正気でいても、いい事など何もない。  正気でいると、かつての手下であり仲間だった者たちの近況まで、しっかりと理解してしまう。  あの後、敗者たる小柄な獣人たちは、首領を除いて解放はされた。  だが双方の関係性は、以前とは一変してしまった。  もう、対等な敵対関係ではない。言うなれば従属関係だ。やつらのおこぼれで、生き永らえている。  分け前を差し出す事で狩り場の供用を認め、決して逆らう事は出来ない。  何故なら、首領たちを一瞬で無力化したあの薬は未だにやつらの手の中にあるからだ。歯向かったところで、勝ち目は皆無だ。  そもそも、彼らにはもう、対抗する気概など持ってやしないだろう。  かつて同族のボスが君臨していた頃より、大収穫こそないが危機的に飢える事もなく、安定性は得られている。  それに、おこぼれに預かるのは、狩り場や獲物だけではない。  仲間だった筈の、首領だった筈の、今は雌になった男も、時折与えられていた。  それがある限り、彼らは下僕ではあるが、敗者ではない。  群れの最下層は、かつてはボスを気取った男だ。  従属を強いられる鬱憤は、自分たちを支配する強者ではなく、情けない姿の同族に向けられる。  近頃では同族とも思っていないようで、お前が失敗したせいで、というような恨み言も言われなくなった。最早ただの、最底辺の生き物だと認識しているようだ。  そういう事に気付かされて、行き場のないつらさに打ちのめされる事にも、もう疲れた。  正気でなんていたくない。  正気なんていらない。  散々歯も折られて、もうまともな食事すら出来やしない。  だから自分から、正気を捨てる事にした。  薬があろうがなかろうが、もう、全部、狂気でいい。  換気も出来ていない室内の、空気が僅かに動いた。  ああ、誰か来た。  それが誰かなんて、認識しようという気持ちすら果てた。 「早くぅ……ここにチンポちょうだい……?」  雌になった男は、相手の顔も見ずに股を開いた。

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