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第2話

 全身を隈なく暴かれた。  細部まで鼻を寄せられ、決まって臭いと詰られた。  どれほど無礼な扱いを受けても、赤いペニスだけは場違いに存在を主張していた。  そして今は、睾丸や太腿に触れられるとすぐに射精してしまうからと、乳首を執拗に弄ばれている。  薄い皮膚はすぐに変色し、色の薄かったそこはすぐに赤黒く変化した。  発情の為の火照りでもなければ、度重なる愛撫のせいでもない。紛れもない、暴行のせいだ。 「フー……フゥゥうぐッ……」  声を殺そうと唇を噛みしめるせいで、涎に混じって滲んだ血が、顔を汚している。 「さすがにこっちは反応が鈍いか?」 「どうだろうな、萎えねぇし」 「つぅか、そろそろ突っ込みたくね?」 「まーな。でも口はなァ……噛み千切りそうだ」 「おー怖い」  心にもない言葉を吐いては、またゲラゲラと笑っている。 「じゃ、やっぱこっちか」 「フギッ」  唐突に尻尾を掴まれる。抜けるのではないかという力で引っ張られ、俯せに腰が持ち上がる。 「こっちも小せぇんだよなァ……」  何を指しているのかは、俯せを強いられる格好でも分かった。  ペニスはまだしも、そんな場所の具合など気にした事もなかったが、彼らとの体格差を考えれば、自分たちは何もかもが小さくても当然だろう。 「どうする? 強引に突っ込むか?」 「そんなん一発で裂けるぞ。今でさえ臭ぇのに、血塗れとかねえわ」 「ハハッ、言えてる」  決して己の身を気遣っているわけではない。ただ臭うから、それだけを理由に、未だ雌の代わりとやらを果たせていない。  その事に、焦りを覚えていた。  首領の振る舞いひとつで、仲間たちの命運が変わる。  彼らの欲求を満たしてやらなければ、何をされるか分からない。  視線の先では、緩慢ながらに漸く動けるようになった仲間たちが、ひと固まりに寄り添い、不安げな眼差しを向けている。  だが打開策が見つからない。  ただでさえ高慢な性格と、薬草の影響では上手く媚びる手段など、思い浮かぶ筈もなかった。  一頻り小振りな尻を撫で回したあと、彼らはまた、ひょいと玩具のようにその身を引っ繰り返す。 「大体よぉ、こんな貧相な体じゃ勃つものも勃たねぇだろ?」 「うわ、ひっでぇ。なあ? おチビちゃんはこんなに盛り上がってんのに」 「ヒッ……」  ピンと、指先でペニスを弾かれる。  その衝撃にまた、射精した。 「あーお前、また……言ったよな? 臭ェからあんま出すなって」 「ひ、ァ……わ、悪かった……」  最早こんな事で噛みついても仕方がない。理不尽な言葉にも、首領は詫びた。  もう、仲間たちの抗議の声は聞こえなくなっていた。  呆れられただろうか。それも道理だ。作戦は失敗し、手下たちを危険に晒した。もし生きて帰れても、首領でい続ける事など出来やしないだろう。  今はただ、この窮地を脱する事だけを考えなくては。 「なんだよ、お前らの種族って、そんなに早漏なのか?」  だが、この身を差し出す事に悔いはなくとも、従えない事、頷けない事は、まだあった。 「ち、違っ……」 「短小な上に早漏かよ! 恥ずかしい雄だなァ。他のやつらもみんな『こう』か」 「違うッ……!」  侮辱された。  己だけでなく、己の率いる仲間たちを。  自身はどれほど辱められても構わないが、同胞全てが一緒くたに貶される事は、我慢ならなかった。  それがたとえ、下品な雑言でもだ。 「……へえ、違うんだ」 「じゃあなんだ、お前が特別に粗末なチンポで、叩かれても射精する淫乱って事か」 「ち、違う……」 「事実だろ? さっきからその臭くて小っせぇモン、何度粗相してんだ? え?」 「それはっ……」  だが首領を見下ろす面々は、そんな反論も予想のうちとでもいった風に、捕らえたボスを更に追い詰める。  護るべきは自分の身か、仲間の命か、そんなものは比べるまでもなかった。  何があっても、その優先順位は変わらない。  たとえ己が、どんな目に遭おうとも。  ただ生きて返すだけではいけない。彼らがこの先も、牙と爪に誇りを持って、この世界を渡る為には。 「……、から」 「は? 何?」 「そう……だから…………俺が、特別に、淫乱……なんだ」  言い切ると、落胆ともなんとも言えない息遣いが、遠くから微かに聞こえた。  ボスの威厳がここで失墜しようと、もう構うものか。  自分だけが、みっともない弱者になればいい。  ここで泣き言を零したり、仲間たちに助けを乞う方が、よほど恥ずべき事だ。 「へえ、そうかい。なら、本当かどうか見せて貰おうか」 「えっ……?」  だが勝者たちは、その言葉だけでは満足しなかった。  矛先は、遂に手下たちに向く。 「なあ、お前……そうだな、そこの赤毛の、そう、お前。こっちに来い」  固まって震えていた仲間のうち、1匹だけを呼びつける。  呼ばれたのは今日引き連れていた群れの中で、1番若い男だった。血の気も体力も有り余っているような活発な雄で、しかし今は見る影もなく、怯えを露にしながらとぼとぼとこちらへ歩み寄っている。  嫌な、予感がした。 「お前らのボスが特別なだけで、お前らはこんな淫らじゃねぇって言ってんだけど。信じらんねぇからさ、お前ちょっと、見せてみろよ」 「な……何を言って……」  戸惑っているのは、若い雄も同じだった。  少々やんちゃ過ぎて手が負えない部分もあったが、自分をよく慕ってくれていた男だ。  仲間に手を出すと言うのなら、いっそ噛みついてでも……そんな考えが脳裏を過った矢先だった。  そっと、連れて来られた同族の耳に、呼びつけた男の唇が寄せられる。 「お前、ボスを犯せ」 「なっ……!」  耳元で囁かれた言葉に、仲間は目を見開いて絶句した。  硬直してしまったのは、囁かれた本人だけではない。  自身の精液に塗れ寝そべっていた首領も、驚きを隠せなかった。  仲間に痴態を見られるだけでなく、まさか、そんな事。  群れの仲間同士で戯れに処理をする事はあっても、誰よりも位の高い首領を犯そうだなんて、考える者はいなかった。  自身もつとめて、ストイックなくらいの態度で接してきた。  敗者として、勝者たる余所者に屈するなら、悔しいが弱肉強食の理に従う定めだ。  でも彼らは違う。彼らは仲間であり、群れの手下たちであり、場合によっては所有物にも等しい存在だ。  なのに、そんな、そんな事を、されてしまったら……―――― 「お前らだって、まだあの粉の効き目、完全には抜けてねぇだろ?」 「燻ってんだろ? しかも同族がこんなに、発情した体液プンプン臭わせてちゃな」 「ほらやれよ、犯せよ。お前だって、気持ち良く射精しちまいたいだろ?」 「ぁ……あぁ……」  悪魔のような言葉が、次々に吹き込まれていく。  若い雄はいちいち動揺し、次第に股間が膨らみ始めた。  ダメだ、と。  喉まで出かかる言葉を、引っ込めた。  ここで抗えば、却ってやつらの要求が増えるだけだ。未だ仲間たちを逃がす算段も見出せていないのに、挑発するわけにはいかない。 「……ボ、ボス……」  あの血気盛んな男が、情けない声で呼んだ。  だから首領はまたひとつ、自身の矜持を、捨てた。 「…………いいぜ。ほら、まだ誰も使った事のないアナだ。好きにしろ」  そう言って、自ら脚を開き、小さな穴を指で開いた。  自分から動く事で、迷いを断ち切る。 「ッ……!」  その瞬間、若い雄の、本能が剥き出しになった。  途端に覆いかぶさり、まだ着衣のままの性器をごりごりと擦りつけ始めた。 「っは……ボス……ッ」  感極まったような声で呼ぶその目は、劣情に潤んでいる。  他種族に見下ろされながら同族を交わる事を強要されている。うっかりすると、泣いてしまいそうだった。  この馬鹿げた余興は、いつまで続くというのだ。 「おいおい、がっつき過ぎだろ。突っ込む前に出す気か?」 「それじゃ早漏じゃないって証明出来ねぇだろ? 仕方ねえから、手伝ってやるよ」  余裕のある声が口々に言うと、衣を裂くを音が聞こえた。それに伴い、アナルに触れる感触も、布地から生身のそれに変わる。  既に湿っていて、硬い。 「やっぱグロいな」 「でもボスよりは少しデカいんじゃね?」 「ははっ! 良かったなあ、多少立派なモンで処女散らせて」  揶揄する言葉は止まないが、眼前の同類には聞こえていないようだった。  ただただ息を荒らげて、早くも狙いを定めている。  あの粉末のせいか若さのせいか、慣らすなどという発想はまるでないようで、ひたりと、先端が窄まりに押し当てられた。  そのまま、狭い孔を貫かれる。 「ァ、ギ、ァァ……!!」  絶叫してしまいそうになるのを、必死で堪えた。  雄の性器が、手下の陰茎が、ずぶずぶと押し入ってくる。徐々に太くなるそれは、深く埋まれば埋まるほどに孔も拡げられていく。  やがて、がつん、と、若い男の腰が打ち付けられた。力強く腰を掴まれ、根元まで侵入を果たしたらしい。  だが、真の試練はその先だった。 「ギィィ……ォ、オオ、、ご、ァッ……ッ!」  悲鳴にすらならなかった。  返しのついたペニスが、今度はずるずると抜かれていく。  そのせいで泣く雌は珍しくなかったが、首領の肉体は雄のそれだ。元より、受け入れる事に適していない。それなのに強引に貫かれて、苦痛は凄まじいものだった。  引き抜かれては、突き入れられる。  内側の肉が、ぐずぐずに崩れていくような錯覚に陥る。 「ボス、ボス……っ!」  若い雄は熱っぽく、未だに群れのリーダーたる者の呼称を連呼した。  しかしそれは到底、正気と呼べる様相ではなく、一心不乱に腰を振りたくる獣に過ぎない。 「チッ……やっぱ臭ぇな」 「血の臭いだ」 「まあザーメンに比べりゃマシだろ。獲物と似た匂いだ」  揶揄の声も、どこか遠い。  出血に関しては、指摘されるまでもなかった。  懸命に噛み締めた口の中にも、その味は広まっている。  ただただ、暴力が過ぎ去るのを待っていた。  そんな時間が、どれだけ続いただろう。恐らくは、ほんの数分だったに違いない。  組み敷かれた首領にとっては、これほど長い数分は初めでだったけれど。 「ふぅん……まあ、確かにボスほど早くはねぇのか。こいつまだ射精してねぇ」 「そのボスはケツから血ぃ流しながら勃起してるけどな」  ぼんやりと、満足したらしい勝者たちのやり取りが聞こえた。 「ああ、もういいもういい。お前らで勝手に盛り上がられてもつまらん。そら、処女喪失のお祝いだ」 「ッ、ぐ」  顔の上に、再度粉末の詰め込まれた小袋が落とされる。  落ちた衝撃で袋は破れ、粉末が舞った。 「ぐほっ、げほっ、ッ……」  まともに粉末の直撃を食らい、反射的に咳き込むと、その度に余計に噎せた。  だが被害は、粉を浴びせられた首領だけに留まらない。 「あ、ぁっ……そんな、ナカ、締めつけられたら……ッ、ボス……!」  舞い上がった粉末を吸い込み、更には咳と一緒に締めつけられて、若い雄は上擦った情けない声音で告げた。  そしてまだ、視界もクリアにならないうちに、一際荒々しく体内を抉られたかと思うと、腹の底がかっと熱くなった。 「ぁあ……あぁぁー……」  うっとりとした吐息と共に、同族の雄は射精した。  遂に、腹の中に、子種を受け入れてしまった。  ああ本当に、ただの性欲の捌け口ではなく、雌にされるのだと、首領は漸く、真に理解した。  直腸を傷付けながら赤い性器が引き抜かれると、血の混ざった白濁が溢れた。  その時にも、首領は射精した。

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