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夢ノ内高校体育祭 開催 18

次の競技である「借り物競争」で午前の部は終了する。 借り物競争は午前で1,2年をし、午後で3年がすることになっていた。 あの後、満足そうに笑った鼓。遼介が下に降りる気配がないことに首を傾げた。 「あれ、先輩は午後ですか」 「そうだよ、だからつーくんが頑張ってくださいなんだ」 「......変なの出なきゃいいんですけど」 借り物競争では数メートル走った先に紙のついた紐が吊り下げられているという、簡単な仕組みだ。 内容は正気の沙汰ではないものが多いが。 1年の惨状を見せられ、2年全体が戦々恐々していた。 (確か去年は豆腐って出た人が居たんだよね。さっきは納豆...取ってこれるかぁぁ!って叫んでた) 変なもの出ませんように!と祈り鼓は走り出した。あくまで、で。 遅めに到着した鼓は、余り物の紙を紐から取った。勝つ気は無い。 「...」 "借り物 生徒会の誰か" (.........もう、借り物じゃない) げんなりしながらも遼介を呼ぼうとした鼓は、固まり、目を逸らした。 既に遼介は違う人に連れられていたのだ。 「氷川先輩来てくれてありがとうございます!」 「ああ、うん」 「僕の借り物、「好きな人」なんです!僕氷川先輩が好きです!」 「そう、ありがとうね」 「はい!」 建前なのか、遼介は2年生のに笑顔を向けていた。 (...他の人にも、あんな顔で笑うんだ) ギリギリと痛む胸。分かっている、あれは建前で本当はありがとうなんて思ってもいないこと。だがそれでも、靄が晴れない。 (......無視、確定) きっと無視すれば遼介も慌てふためくに違いない。そうだ、そうすればいい。そんな先輩の姿を見て先輩が悪いんですから!と言ってこっそり笑えばいい。 楽しそうな光景を思い浮かべているのに、今を見て落胆する。 あそこにいるのは、自分じゃない。 あそこで笑いかけられているのは、自分じゃない。 観覧席の方を向いて詩帆か隆盛を指さしペコリと頭を下げた。詩帆が頷き降りてくる。 「は〜い、鼓くん行こっか!」 「ありがとうございます」 再三頭を下げ走る。 係の人に紙を渡してOKです!と言われ初めて鼓はゆったりと息を吐いた。 周りを見渡せば遼介はまだ2年生の誰かと一緒にいて、鼓の頭上に暗雲を立ちこめさせた。

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