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夢ノ内高校体育祭 開催 19

無視して、遼介の慌てふためく姿が見たい。 そう思っていた鼓だが、その作戦は見事に空転するとなった。 「じゃあごゆっくり。俺は野沢先輩と柴先輩と古木と食べてます。あぁ早く戻って来ようとかは考えなくて大丈夫ですよ。全部食べておきますからそれじゃ」 『つーく、』 ブツリと電話が切られる。 先に観覧席に戻ってきた鼓と詩帆。 「氷川先輩から電話掛かってきてたぞ」 古木がそう言って鼓に携帯を渡す。 (そう言えば、先輩まだ帰ってきてないんだ) 生徒会の仕事で何かを持ってきて欲しい、という要件かもしれない。それなら志帆や隆盛に掛ければいいのだが、何か理由があるのだろう。 発信ボタンを押すと、直ぐに(0.8秒程で)遼介は電話に出た。 『もしもし』 「はい」 『つーくん、あのさお昼ご飯なんだけど、俺『せんぱい、早く来てください〜』っ、ちょ』 「............ぁあ、そういうことですか」 背後から聞こえる男とは思えない黄色い声。 携帯から少し声が遠ざかったことを思えば、多方腕を引かれ電話口から引き離されたと考えるのが妥当だ。 そうして冒頭に戻る。 「じゃあごゆっくり。俺は野沢先輩と柴先輩と古木と食べてます。あぁ早く戻って来ようとかは考えなくて大丈夫ですよ。全部食べておきますからそれじゃ」 『つーく、』 ブツリ。 「...えっと、涼川?」 「鼓くん?」 「...はぁ」 「............さて......お昼ご飯食べましょうか!」 3人の心配(隆盛はため息だけだ)を他所に大カバンをヨイショと持ち上げ、観覧席内にあるテーブルの上に置いた。 「...え、それ、お弁当?」 「はい」 「「「でかっ」」」 「そうですか?」 取り出されたのは重箱。それも、かなり大きめ。 「それ、一人で食べるきか...?先輩呼ばなくて大丈夫なのか?!」 「腐男子、ちょっと黙っててくれる?先輩の名前今出さないで」 「ひぃっ、すみません鼓様!」 「鼓くんが苛立ってる...雹降るよこれ、冷たいっ」 重箱を開け黙々と食べ進める。と、周りがじっとその重箱を見つめていることに気づいた。 入っているものが煌びやかな食べ物ばかりだからだ。 1段目は普通の卵焼きや唐揚げ、おにぎりにサンドイッチ。 2段目はエビのアヒージョや洋風サラダ、ローストビーフ、ミニグラタンなど。 3段目も2段目と同じ。 4段目は(普通はない)デザートで、紅茶のアプリコット、アップルマンゴープリン、小分けされたチュロス。 「あの、食べます?」 鼓は視線に負けそう答えた。

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