281 / 437

幸せな時間は終わりを告げる 9

side鼓 何が起きたのか、分からなかった。何かに躓いて、よろけて、気づいたら遼介が本棚ごと倒れていた。 「遼介、?」 倒れている恐る恐る近づく。 いつもなら俺が名前を呼んだら、嬉しそうに返事してくれるのに、してくれない。 本棚が、遼介の、上に、あって、 「遼介」 遼介が、動かない。 「遼介」 頭に手をかけて、ヌルリとした感触に手を直ぐに引っ込めた。 これ、これ、だめな、やつ。 血が、出て、 周りがザワつく。なんだどうした、と人が集まり始めると悲鳴や怒号がしてきて、でも俺は遠くに聞こえた。 「涼川?!っどうしたんだこれ、氷川先輩がっ!」 「ふるぎ、」 座り込んでいる俺に古木が膝をついて視線を合わせてくれた。途端、訳が分からなくなって涙が溢れる。 「遼介が、っ、うごかなっ……なんで、」 「っ」 古木は何も言わないで抱き寄せてくれた。胸に縋り付き嗚咽をあげる。 何が起こったのかが、分からない。理解したくない。 「おい!本棚起こすぞ手伝え!」 「いっせーのーで行くぞ!いっ……せーのーで!」 「……っ、氷川!大丈夫かおい!」 「血が出てる!救急車呼べ!」 「聞こえるか氷川?!おい!」 保険医が駆けつけても遼介は動かない。起き上がって、つーくんって声をかけてくれない。 「担架持ってきて!早く!」 担架……?遼介を、どこへ連れていくの。 やめて、引き離さないで。 「や、だ」 「涼川?」 「やだ、遼介、いやだっ」 足が震えて立てないから、必死に手を伸ばして遼介に触れようとする。なのに手は届かなくて、遼介も担架に乗せられて、俺たちの距離がドンドン離されていく。 「っ、ぁ」 持ち上げられるときに、青白い顔の遼介が見えた。血の気のない顔。額から血が流れていた。 それを見て……俺の意識は途絶えた。

ともだちにシェアしよう!