283 / 437
幸せな時間は終わりを告げる 10
side鼓
『……』
『……くん』
『……』
『つーくん』
遼介に呼ばれた気がして、飛び起きた。起きてから、どうして飛び起きる必要があったのだろうと考える。
「…………遼介?」
そう言えばと思い出せば、呼ばれたと思ったのに遼介はここにはいない。それに知らない場所だった。
真っ白なカーテンと、清白な枕とベッド。
昔はよく見たそれらに、どうして自分が寝ているのか分からない。
遼介がいない理由も分からない。
服を見てみると、検査服と言うか病院服と言うか、そういったものを着ている。
「……」
布団を押し退け、ソロリとベッド降り冷たい床に足を下ろした。カーテンを乱雑に開けて部屋を出る。
「……」
遼介はいない。
夜だったみたいで誰一人見かけない。夜の病院は怖い、お化けが出そうだから。
早く遼介を見つけなきゃ。
足が冷たいという感覚すらなく、病院内を走り回る。右往左往しながら遼介を探し回るけど見当たらない。
ナースステーションは避けた。何となく悪いことをしてるって分かってるから……けど、遼介を見つけるまで止まれない。
「遼介、」
出入口付近も見た。
食堂も見た。
トイレも見た。
自販機コーナーも見た。
中庭みたいな場所も見た。
いつの間にか足の裏から血が出てきてたけど、止めることができない。だって、俺は遼介を見つけなきゃいけないから…。
「いない」
あと見れるのは、集中治療室。
大きな窓が付いているそこは、こっちからでも中を見ることが出来る。
心臓がバクバク音を立てていた。お化けよりも、遼介がここにいてしまう事の方が怖い。遼介がいるはずがないと心の中で必死に言い聞かせた。
「……っ」
良かった、見回す限り遼介はいない。
……じゃあ、どこに?
急に眩暈がして座り込んだ。
会いたい人に会えないのがこんなに辛いのかと、遠距離恋愛の辛さを思い知った。世間のカップルはよくこんなものが出来るよね、すごい。
……賞賛している場合じゃないだろ、俺。
ともだちにシェアしよう!