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幸せな時間は終わりを告げる 10

side鼓 『……』 『……くん』 『……』 『つーくん』 遼介に呼ばれた気がして、飛び起きた。起きてから、どうして飛び起きる必要があったのだろうと考える。 「…………遼介?」 そう言えばと思い出せば、呼ばれたと思ったのに遼介はここにはいない。それに知らない場所だった。 真っ白なカーテンと、清白な枕とベッド。 に、どうして自分が寝ているのか分からない。 遼介がいない理由も分からない。 服を見てみると、検査服と言うか病院服と言うか、そういったものを着ている。 「……」 布団を押し退け、ソロリとベッド降り冷たい床に足を下ろした。カーテンを乱雑に開けて部屋を出る。 「……」 遼介はいない。 夜だったみたいで誰一人見かけない。夜の病院は怖い、お化けが出そうだから。 早く遼介を見つけなきゃ。 足が冷たいという感覚すらなく、病院内を走り回る。右往左往しながら遼介を探し回るけど見当たらない。 ナースステーションは避けた。何となく悪いことをしてるって分かってるから……けど、遼介を見つけるまで止まれない。 「遼介、」 出入口付近も見た。 食堂も見た。 トイレも見た。 自販機コーナーも見た。 中庭みたいな場所も見た。 いつの間にか足の裏から血が出てきてたけど、止めることができない。だって、俺は遼介を見つけなきゃいけないから…。 「いない」 あと見れるのは、集中治療室。 大きな窓が付いているそこは、こっちからでも中を見ることが出来る。 心臓がバクバク音を立てていた。お化けよりも、遼介がここにいてしまう事の方が怖い。遼介がいるはずがないと心の中で必死に言い聞かせた。 「……っ」 良かった、見回す限り遼介はいない。 ……じゃあ、どこに? 急に眩暈がして座り込んだ。 会いたい人に会えないのがこんなに辛いのかと、遠距離恋愛の辛さを思い知った。世間のカップルはよくこんなものが出来るよね、すごい。 ……賞賛している場合じゃないだろ、俺。

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