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幸せな時間は終わりを告げる 11
座り込んでぼんやりと宙を見つめる。
なんでここに居るのか、ちゃんと思い出さないと。
闇雲に探し待ったところで遼介は見つからない気がする。
古木に勉強を教えていて、疲れたって言うから暇つぶしに本棚を漁ってた。十分頑張ってたし休憩入れても大丈夫だよねって。
心理学とか読んでたような気がする。今はそんなの関係ないけど。
遼介は先生に呼び出されてて……その理由…あ、生徒会室の鍵の事か。行方不明だから対策練るけど、意味ないよねって話してた。ドアごと買い換えればいいのに、なんて富豪発言してたような。
それで、本棚を漁ってたら遼介が来て、嬉しくて。
それから、
……それから、どうなった?
生徒会室の鍵が下に落ちてて、
「……ぁ」
殴られたような衝撃。思い出される悔恨と悲痛な胸の痛み。手に付いた鳥肌が立つやうな血の感触、辺り一帯のざわめき、悲鳴。
伸ばしても届かない手が、意識の薄れゆく中落ちていくのを記憶していた。
遼介、が、
「いたっ…鼓くん!」
呼吸の仕方を忘れそうになった次の瞬間、呼ばれて息を吹き返した。
「古木、と、野沢先輩」
走ってきたのは焦りを浮かべた2人だった。どちらも軽く汗を滲ませていて自分が探されていたことが分かる。
「トイレから帰ってきたらいなくて超驚いた、何やってるの?!点滴引っこ抜いてたし!」
「まぁそう言わずに。俺も結構心配したよ、涼川。戻ろう」
野沢先輩は厳しく責めるけど、古木は優しく促してくれる。どちらにしろ、心配を掛けてしまったことには違いない。
けど、俺、まだ戻れない。
「……遼介は、どこ」
ビクッと2人して肩を飛び上がらせた。ねぇ、なんでそんなに表情を曇らせるの。俺が遼介と会うと何かあるの。
「……会いたい」
「涼川…」
「鼓くん、また後で「今じゃないと、嫌だ」」
野沢先輩がじっと俺を見る。俺も負けじと野沢先輩を見る。
古木は携帯片手に「見つかりました」と誰かに連絡している。医者か、柴先輩だと思う。
「………………わかった」
長い沈黙の後、負けたらしい先輩がため息をついた。
「先輩、」
その決断に電話を切った古木が顔を歪ませた。
「遅かれ早かれ分かることだよ」
古木は渋い顔をして同じようにため息をついた。
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