301 / 437
愛されていると分かっていても
キョロキョロと数分辺りを見回したところで、彼は当初の目的をようやく思い出した。
(あ、目的忘れるところだった。眼鏡取りに来たんだよね)
いくつか箱を開けていくと時折、いつの間に取ったのだろう……と思われるような代物があったりなかったり。ここでの内容の記載はあえてしないこととする。
そうしてやっと見つけた眼鏡は、黒縁の、つまり鼓が愛用しているものだった。何故か同じように、遼介の眼鏡も入っている。こちらも黒縁。
「…」
無言でそれを手に取り、掛けてみる。
(あれ?度が入ってない?)
度がキツくても、キツくなくてもボヤけるだろうし、と思っていた鼓は拍子抜けしてしまう。それはただのレンズであった。それから不思議に思う。
何故伊達メガネを掛けているのか、と。
(遼介に聞こう)
そう何気なく思って、
振り返って、
「……あ」
現状を思い出し、なんとも言えない顔で外した眼鏡を見つめた。
(……遼介が、俺を愛しているが故の行動。それ自体は嬉しい。でも、俺がいなかったら遼介は怪我をすることもなかった)
思考が、深くへ、悪い方向へ落ちていく。
(これは、考えちゃいけないこと)
遼介の眼鏡を、ついでにポケットに入れる。もちろん、自分の眼鏡も手に取ってかけた。
(俺は、)
(遼介と)
(別れた方が、いいんだろう)
ともだちにシェアしよう!