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300話記念
*ストーカーの件を詩帆と隆盛に言う遼介の話
「ストーカー?!」
目を丸くした詩帆が叫ぶと、隆盛はうるさそうに片方の耳を塞いだ。
それもそのはず、あの事件以来、今まで何事にも執着してこなかった遼介がストーカーに発展していたのだから。
同様に、隆盛も少々落ち着きがない。
遼介は眼鏡を気にせず顔を覆った。
詩帆が恐る恐る、といった様子で遼介が手にしているブツを指さした。それは白色で、丸い形をしていて…
「その、手に持っているのは、」
「つーくんの使った…スプーン…」
そう、スプーン。どこにでもある乳白色の使い捨てスプーンだ。
「つーくんって!まるで付き合ってるみたいに」
「頭の中では付き合ってる」
「頭おかしくなったの?!」
自分でもそう思う、と遼介はテーブルに額を擦り付けた。
悲惨、凄惨。
「つーくん……って言うのは、」
「涼川 鼓、4月2日生まれ、身長166cm、体重は49.5kg、痩せ型、高校一年生、16歳、中学高は「もういい、分かった」……」
呆れた目を向けられて更に遼介は机にめり込んだ。文字通り、めり込んだ。
もともとストーカー気質たった遼介に収集癖が付いたのは、鼓がこっそりと生徒会室を使い始めた事からだ。
気がついた理由は、スペアキーが消えたこと。聞けば「食堂だと揉め事が起こるため、ゆっくり食べる所を確保しようとした結果生徒会室を使用するようになった」と。
当たり前のようにその様子を毎日録画して見ていた、あくる日。
(……つーくん、今、割り箸落とした)
大量の昼ご飯をぺろりと平らげ、悠然と去っていく鼓。
満足いくまでその姿を眺めていた時、食べ終えた容器が入れられたその袋から割り箸の片割れが落ちたのをはっきり見たのだ。
「……」
それが、どうしても気になる。
違う部屋で食べていた遼介は生徒会室にわざわざ赴き、その割り箸を拾う。
(これ…)
(いやいや、俺何してんだよ)
(でも、これ…つーくんの…)
(ああ、これってさっきまでつーくんが使ってた…口に入れてた、割り箸なんだ)
そう思うと何故かゾクゾクした。
そうして気づけばそれを、そっとティッシュで包んでポケットに忍ばせていたのだ。
話終えると、詩帆はテーブルに掌を叩きつけた。大きな音が部屋中に響き渡る。それと同時にテーブルの上のマグに入った飲み物が揺れた。
「経緯はいい!その割り箸どうしたの!」
「ジップロックに入れて大切に保存中」
「ジップロック!ジップロックはそのためのものじゃないの!」
「真空パック機能付き」
「真空パック!意味ないだろ!」
「もう5袋目」
「5袋目!ねぇ他に何があるの?!聞きたくないけど!」
「毎日それを眺めて微笑んでる」
「微笑んでる!It’s eerie!(不気味だよ!) 」
オウム返しが幾度か続いた。
隆盛が片手で額を押え唸り、詩帆は目をぐるりと1周回し呆れた目をした。そんな中、遼介は一言。
「大丈夫、バレないようにする」
「「当たり前だろ(でしょ)!」」
後に、普通にバレて付き合い始めるまでそう長くはなかった。
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