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いざ、ご対面 1

学校に行くと、鼓の椅子と机は綺麗に撤去され代わりに外国で使うようなチェアーデスクが置かれていた。 (え…いや、使いづら。あれだけ使ってない空き教室あるくせに机と椅子持って来れないの?誰か使ってるならまだしも…) などと毒を吐きつつも、眉を顰めるだけに収める。 今日の鼓は寝不足である。 詩帆に言われたことが頭の中をぐるぐると回り、なかなか寝付けなかったのだ。寝返りを2度3度、4度5度していたら、次の日だった。 (まだ知り合って間もない………間もない?からかもしれないけど、遼介の話の中で女の人なんて、ましてや名前なんて出てこなかった) 知り合って間もないという言葉に引っ掛かりを覚えたがスルーする。今はそれは思考の邪魔でしかない。 (この学校にいる時だって、話しかけられても"誰だっけ?"って返すのに。でもあれはわざと忘れてる感じがする…) 遼介は校内で呼び止められた時、大抵無視をする。しかし鼓がどうしても振り返ってしまうので、遼介も振り返るしかなくなる。その際相手は遼介のことを慕っているような佇まいをするのだが、遼介はそれを「へぇ、ありがとう。ところで誰?」と返すのだ。 (多分あれ、俺にすとーかーを始める前に体の…関係を…持って……………) 鼓の周りの温度が、徐々に下がっていく。今なら人ひとり凍らせるか殺せるかしそうな程の冷気、否、殺気。いくら遼介のが過去のことであったとしても、許し難いものがある。しかしその鬱憤を晴らす相手も遼介なのだが。遼介のことでイラついて、遼介で発散するのだ。 (こういうのって素直に聞いちゃっていいのかな…もしも未だにその相手のことを嫌ってたりしたら、聞かれたくないだろうし。野沢先輩も"あの女のせいで"って言ってたし) 違うことを考えたおかげで、鼓の周りの温度が元に戻り、凍てついていた空気が吸っても痛くない程度になる。 (…逆に、これはあまり考えたくないけど。未だに思い続けている相手だとしたら…?) そうしたら、それは、言わないだろう。今付き合ってるのは鼓だから言うのは気が引けるというのもあるし、鼓が男だからという面もある。後者に関していえば、それは鼓対しての嫉妬となる。 またしても温度が急激に下がる。今度は怒りではなく、なんとも言えない寂しげな悲しげな冷たさだ。 (………でも、俺は…)

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