360 / 437
夏服と変態 1
[邂逅編] 拝啓
「つーくん写真撮っていい…?」
はぁはぁと荒い息遣いをしながらそう言ったのは、カメラを既に構えた遼介だった。思わず鼓は眉を顰 める。
(ヘンタイ)
「うんそうだよ俺はつーくん専門の変態だよ」
なぜか心を読んだ遼介はにっこり笑ってそう言う。そしてすぐにマシンガンのように鼓の魅力について語り出した。
「つーくんの夏服から伸びるその白くて細くてきめ細やかな腕がもうそれはそれは極上で今にも涎が出そうで……!冬服からチラ見えする美しい頸もまた最高なんだけどどうしても首が隠れてもったいない!けど夏服は第一ボタンを開けていいっていう最高な規則のおかげで俺は今滾っている!!蒸し暑く蝉がうるさく鳴く中…汗がつーくんの頸を伝ってゆっくり落ちて行く光景…なんて最高なんだ!!ああでも夏服は首元が開いてる分他の奴らも愛しい愛しいつーくんのいやらしい首筋を見れてしまうのかと思うとそれはそれで胸糞悪い…くそう俺の心はいま二つに揺れている!つーくんだけ特例で第一ボタンを止めさせるか現状維持か……ああああああ迷う!!!!つーくんはどっちがいい?!」
急に話を振られた鼓は固まる。なぜなら遼介の語り口が早すぎて聞き取れてなかったからだ。もちろん最後の質問も。
「……え?」
「つーくん第一ボタン止める気ない?!」
「………………暑いからボタンは止めたくないです」
「わかったつーくんを30秒以上見たやつを退学させる罰則を作ればいいんだね」
「遼介ちょっと落ち着きましょう?!」
カメラを取り上げ鼓は叫んだ。
季節は夏。
蒸し暑さはもうすぐピークを迎えようとしていた。
朝にも関わらず外は既に陽炎が立ち込め、日陰であっても照り返しにより汗が滲む。エアコンがなければ死にそうになる季節の到来だった。
幸いにも夢ノ内は金持ち学校なだけあって設備は素晴らしいものだ。教室、廊下にも冷暖房が備えられている。
加えてもとより山中に建っているだけあって寮から学校への道のりも涼しい。しかし今年の暑さは苛烈を極め、山中にも関わらず外に出るのが億劫なほどだった。
授業も残り数週間。そうすれば夏休みがはじまる。
そして間服期間と呼ばれる時期を過ぎ、衣替え期間に移行し、話は冒頭へ戻る。
ともだちにシェアしよう!