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涼川 鼓 6

あれ以来母さんは少しおかしくなってしまった。俺の行動全てに制限をかけたのだ。 オーケストラにも出さず、旅行にも出かけることも無く。ただ母さんが与えるものだけを享受する。食事、衣服、勉強、遊び…。 テレビは禁止された。その代わりにゲームは許されたけど、母さんが厳選したものを遊んでいた。だから基本的に遊びはボードゲームやカードゲーム。あとは読書ばっかりだった。 外出は禁止。人と会うのも禁止。家に人が来たら隠れる。 父親の話をするなんて以ての外だった。 母さんは俺の興味が自分以外に移るのが許せなかったらしい。だからゲームとかも夢中にはなれなかった。母さんが声をかけたらすぐに返事をしないと――叩かれるから。 初めて叩かれたのは、本に夢中にはなっていた時のこと。ご飯の用意ができて母さんが俺を呼んだのに気づかなくて、更には彼女が後ろに立った事にすら気づかなくて…。 「鼓」 強く呼ばれたことでようやく母さんに気づいた。 「あ、お母さ――」 振り返ると同時に生じた頬の熱。叩かれたのだと理解するのに 然程時間は要らなかった。 「……ぇ」 叩かれた頬に手を当てて、母さんを見上げる。母さんは見たことない表情をしていた。 「鼓、お母さん何回も呼んだのよ」 「ぁ…う」 咄嗟のことで頭が追いつかず言葉が紡げない。それにすら母さんは腹が立ったみたいで、俺の両二の腕を掴んでヒステリックに叫んだ。 「どうして私が呼んだのにすぐに返事しなかったの!お母さんそんな悪い子に育てた覚えはないわよ!そんなに本が好きなの?!お母さんよりその本が好きなの?!答えなさい鼓!!」 「ご、ごめんなさ、おかあさっ……僕おかあさんが好きだよ、ほんとだよ…!」 揺さぶられて、怖くて泣きながら必死に答える。すると母さんもそれに満足したのか、いつもみたいな優しい笑みを浮かべてくれた。 「そう、なら良いのよ。叩いてしまってごめんね鼓。でもこれからはちゃんとしてくれれば叩いたりしないわ」 母さんが優しく俺を腕に抱える。普段通りの母さんに俺は安心してしまったけど…母さんの逆鱗に俺は何度も触れることになる。

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