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涼川 鼓 7
こんな事で怒るなんて…そう思うくらい母さんの規制は厳しくなっていった。
服を自分で着れば怒られ、食事、例えばパンを焼こうとすれば怒鳴られ、1人で部屋を移動することすら許されない。
何もかも、母さんの許しがいる。
母さんは俺がなにかする度に怒鳴って頬を叩き、時には床にたたきつけたりした。
何度、泣いただろう。
怖くて、俺はいつも震えていた。でもごめんなさい大好きって言うと母さんは元に戻るから…俺は子供だから、大人しくするしかなった。
それに、何をされても…本当に母さんが好きだったから耐えられたんだ。
俺の安寧の時間は、ヴァイオリンと風呂の時間。その時間だけは母さんは干渉してこないのだ。
「お、お母さん…ヴァイオリン弾きたい、です」
震える声でそう言えば、椅子に座っていた母さんは無言で俺の手を取り防音室に連れて行く。部屋を移動する時は、母さんに言わなければならない。
「さあどうぞ鼓。あなたの素晴らしい演奏をお母さんに聞かせて?」
母さんは俺の演奏が好きだ。俺もヴァイオリンを弾くことが癒しになっていて、間違えることなく完奏出来た時はすごく気持ちがよかった。
立てかけてあるヴァイオリンを持ち、楽譜台に体を向ける。母さんはいつもの椅子に座って俺を見ていた。
オーケストラにいた時のことを思い出すと、つらい。本当はあそこで弾いていたかった。自分の限界を知りたかった…。
弾き始めたのはパガニーニのラ・カンパネラ。俺の好きな曲のひとつ。ピアノ伴奏が必要なんだけど、母さんは伴奏の人と俺を会わせるのすら嫌がるから言わない。
頭の中にオーケストラを思い浮かべながら弦を触る。
ピアノの伴奏、鐘をイメージした打楽器、溢れかえる音。
終わる頃には汗をかいていた。母さんの方を見ればにこにこと笑いながらさすが私の鼓だわと言った。ずっと、母さんが笑ってくれたらいいのに…。
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