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そんな顔しなくてもまた来るよ 10

そんな顔しなくてもまた来るよ 10 「ど、どど、どうしよう遼介。緊張してきた…!!」 「つーくん落ち着いて、とりあえず箸置こう」 朝ごはん時。鼓は震えていた。昼前に母親が来るという知らせをジャンが持ってきたせいである。食事時にそんな知らせを持ってくるなと鼓はジャンを非難したかったが、そんなに震えるとジャンも知らなかったのであろう。 そして鼓は自身が作った目玉焼きを震える手でどうにか食べようとしていた。 そして遼介に諭されているのが今の状況だ。 「つーくんはさ、お母さんに会えるの楽しみなの?」 どうにか鼓から箸を離すことに成功した遼介が問う。 「……どう、かな。嬉しいといえば嬉しいし、嬉しくないといえば嬉しくないかも」 自分の感情をまだ整理できず、鼓が言う。もう何年も、いや、十数年も会っていない。そんな状態で、しかも最後にあったのは階段から落とされた時だ。…嬉しいかと言われれば、嬉しくないのが本音だ。 でも眞白の本音を知った今、会えるのが楽しみというのも嘘では無いのだ。 (母さん、どんな姿になってるんだろう) 鼓を産んだのが25の時だと言う。今は42~3歳ほどだ。もう昔過ぎて姿は朧気にしか覚えていない。 「何話したいか決めておいたら?」 「この間電話で話題使い切っちゃった…」 「……あー。じゃあ、まず最初にこれだけは言ってやろう!ってことは?」 「言ってやろう…」 それは、いくらでもある。よくも階段から突き落としてくれたな、とか、あの時の母さん怖かった、とか。 でも、本当に言いたいのは…。 「……。うん、決まりました」 「よかった。じゃあそれ言おうね」 優しく遼介に微笑まれ、鼓は頷いた。 それから数時間後、インターホンが鳴って、まずジャンが入ってきた。 「準備は、いいか」 そう聞かれて、鼓は鷹揚に頷いた。 ジャンが後ろ手に声をかけて女性が1人入ってきた。ざあ、と扉から夏の陽気を纏った風がが入ってくる。 「……母、さん?」 あの頃と変わらぬ見た目。十数年という時を感じさせぬほどの若々しい姿に鼓は驚いて言葉を無くす。 「…鼓?」 声も、変わらない。呼ばれると一瞬であの時のことが蘇り、そしてジャンカラ言われた真実も同時に思い出す。脳が一瞬停止し、けれどもどうにか動き始める。 鼓は返事をせずに、ただ言った。 「母さん…、俺のご飯食べて」

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