3 / 22

第3話 きっかけは……

  道路にさっき俺を追い越して行った消防車が   数台止まっている   その回りには野次馬の皆さんもゾロゾロと   集まって……   そして俺の目が釘付けになっているのは、   消防車のホースが向けられている先 「う、そ……」   消防車のホースの先からは大量の水が吹き出し、   それは俺のアパートめがけて勢いよく   かけられていた……   見慣れたアパートの2階の端の部屋からは   凄い勢いで炎が燃え上がり、   バキバキと音を立ててあっという間に   アパートの全室へと広がっていく   俺は少し離れたとこからその光景を   ただ見つめているしか出来ない   動きたくても足がすくんで一歩も   前に踏み出せないのだ  ***  ***  ***   炎と黒煙をジェイクはただ見つめていた。   ものが焼けるひどい臭いが充満している。   熱気を頬に感じた。 「おい、危ないぞ下がれ!」   誰かに怒鳴られ、腕をつかまれて野次馬に呑まれる   それでもジェイクは立ち尽くしたまま、   目を逸らさない……逸らせない。   せまいけれど案外快適だった部屋の   窓ガラスが割れ、炎が噴き出す。   消防車が来て消火活動を始める頃にはアパート中が   火の海になっていた。   周りの声がジェイクの耳に入る。 (……火元は、空き部屋らしいよ) (じゃ、放火?) (ケガ人、とかはいるのかな?) (でも半焼じゃなくて良かったよ……全焼なら保険、  全額下りるから) (みんな逃げてケガした人いないらしいよ) (不幸中の幸い、ってやつだな……)   細長い7階建てのアパートで、   ジェイクが暮らしていたのは2階の北側の   角部屋だった   火元の真上で、外から見る限り、   何もかも燃えてしまった。   炎が見えなくなっても、残り火を完全に消すため   消防車は放水を止めず、黒く焦げた建物は次に   水浸しになった。   燃え残ったものがあったとしても、   到底使い物にはならないだろう。   ジェイクは群集から離れ、ふらふらと歩き出した。   大通りに出ると花壇のレンガにしゃがみこむ   何も考えられない。   何もかもが無くなってしまった。   寝床も、服もベッドも、少しあった金も。   あの部屋にあった物だけがジェイクの全てだった。   (……どうしよう、これから……)     うなだれるジェイクの目の前を野次馬が火事を   見ようと通り過ぎる。   (もう火、消えてるのにな)   他人事のように思うジェイクに、すっと影がかかる。   誰かが前に立ち止まったのだ。 「……あのアパートに住んでたのか?」   頭の上から男の声が降ってくる。     いきなり日本語で話しかけられ、   ”なんだ、こいつ?”と訝しんだが、   どうでも良くなり、ロクに顔も見ず投げやりに   答えた。 「まぁね……火、消えたみたいだけど興味あるんなら  見てくれば」 「消えたのは知ってる。見てたから」 「……あんた、なに?」   ジェイクはやっと男を見上げた。   背が高かった。180センチ以上はある。   ガタイもかなりイイ。   ジェイクは155センチあるかないかなので   並んで歩きたくない相手だった。   着ているのは量産品のスーツだが、   それが小憎らしいほどキマっているのだ。   強面 ――― というのか、   全体的にごっつい顔立ちの男だった。   一重なのにわりと大きく見える目、薄い唇。   えらも頬も張っておらず、   その代わり鼻は高く通っていた。   眉が目尻に向かって上がっているのが   凛々しさを与えている。   ジェイクが最初に認識したのは   自分向きの”客ではない” という事だった。   (ふぅ~ん……まぁ、男前だな。    ごく普通のリーマン、には見えへんけど……)   何を思われているかも知らず、   男はジェイクの隣に座った。 「さっき、火事のところで腕つかんだの  覚えてないか?」 「……あぁ。下がれって」 「そう、それ」 「俺に何か用?」   ジェイクは男をじっと見つめる。   彼が微かに赤くなるのが判った。   自分の容貌が他人の目にはそれなりに見える事を   ジェイクは知っていた。   眉は自然にカーヴを描き、くっきりとした二重の大きな目を   長い睫毛が囲んでいる。   細い鼻筋、形のよい唇は少し赤い。   白く小さな顔にそれらがバランスよく収まっている。   肩にはつかない程度に伸ばして、   1度も染めた事のない艶やかな黒髪。   黒い細身のジーンズにノーブランドのTシャツ   という服装が返って彼の中性的な魅力を   際立たせていた。

ともだちにシェアしよう!