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第4話(注略!”サブタイトルなし”は前話からの続きになります)
「あ、そんなぞんざいな言い方はないか。
すげー煙で死ぬとこだった。ありがと」
「少しでも煙吸ったんなら医者行った方がいい」
「体は全然へーき。でも懐の方がな……」
近くの商業ビルの壁面にある大きなデジタル時計は
午前零時半を指していた。
ジェイクはジーンズの後ろポケットから財布を出して
中身を調べる。
かんばしくなく、眉根を寄せた。
「……やっぱ吉牛にでもすりゃよかったな……」
ぶつぶつ言いながら、財布をしまう。
「さぁて、どうすっかなぁ……」
「── 大家か仲介の不動産屋に相談してみたら
どうだい? こういう時の為に火災保険とか
入ってるはずだし、すぐに現金は入らなくても
泊まるところぐらいは提供してくれるだろう」
「へぇ、そっか、大家か……考えもしなかった」
ジェイクは感心したように男を見上げた。
肩をすくめる。
「けどそれ、あかんわ。おいら、居候やから」
「え ―― っ」
「あのアパートの持ち主は、ネットで知り合った奴
なんだ。そいつがなんかオトコの家で暮らすって
言うからさ、あの部屋に転がり込んだってワケ」
「で、今夜から宿なし?」
「あんたに関係ねぇだろっ」
とたんにジェイクは不機嫌な表情になる。
「んじゃ、おいら行くわ」
話しはもう終わった、と、ばかりにジェイクは
立ち上がり、すたすたと歩き出す。
男はあわてて後を追った。
「……泊まる所、ないんだろう」
「これから見つける」
「金もない」
「だからって何さ。何かあんたに迷惑でもかけた?」
「……あの、名前、教えてくれないか」
「今までの話しの流れでいきなり、ナンパか?
信じらんねぇ……」
「そう思われても構わない」
変な奴ぅ、とジェイクは笑う。
しかし答えた。
「ジェイク。友達とかは”ジェイ”って呼ぶ」
「ジェイ、ね……フルネームは?」
「じゃーな」
ジェイクは足早に歩き出す。
男は彼を引き止めようとその腕を掴んだ。
振り向いたジェイクは男を思い切りにらみつけた。
「おいらのこと詮索すんな」
「判った。何も訊かない……名前はジェイで、
たった今住んでたアパートが火事で全焼したところ。
泊まるあてもなけりゃ、金もない。それでいいか」
「まぁ、そんなとこかな」
ジェイクはきつい表情をゆるめ、
自分の腕から男の手を外す。
「で、あんたの名前は?」
「柊、慎之介(ひいらぎ しんのすけ)」
(う、わぁ ―― 時代劇にでも出てきそうな
名前……)
「ふ~ん、柊さん。で、あなたはどうして俺に
かまうの?」
柊は眉尻を下げた情けない表情になる。
迷いながら答えた。
「あの火事で見かけて……気になって。
もしあそこに住んでるんだったら困ってるんじゃ
ないかって……」
「ふ~ん、じゃ、柊さんって、困ってる人なら誰にでも
声かけるんだぁ」
「あ、べ、別にオレは他意がある訳じゃない、から……」
そう言うと、柊は耳まで顔を真赤にして
俯いてしまった。
根はかなりの純情青年らしい。
そんな柊をジェイクはじぃーっと見つめて
意地悪く言う。
「ふふふ……柊さんって可愛い」
そして『オッケー』と小さく呟き、柊の腕へ自分の
腕を絡めた。
「ジェイ!」
「もう当分の間、客は取らないつもりだったけど
あんたで最後にする」
「??……」
「柊さんなら、俺のこと幾らで買ってくれる?」
「キ、キミはそういう……だったのか……?」
「あら、失望させちゃった?」
「い、いや……なら、言い値で買おう。ただ現金は
持ち歩かない主義でね。僕の家まで来る気はあるか」
柊は挑むような目線を返してくる。
「見ず知らずの俺なんか家にあげていいのー?
有り金かっさらって逃げるかも」
「そうなったら見る目がなかったと諦めて泣き寝入り
するさ」
「あんた面白いね。気に入った」
お買い上げ有難うございます、と、
ジェイクはおどけてまた笑った。
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