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第5話 

  ふたりは駅から続く大通りを少し歩き、   ショップや飲食店が軒を連ねる*番街を通過して、   (シカゴ・L)レッドラインの昇降口を下りる。 「僕のアパートは*駅先なんだ」 「―― って、ゴールドコースト? すっげー、  超金持ちなんだな」 「親の脛かじってるだけさ」   今年は猛暑だったが、9月も終わりに近づくと   急に涼しくなってきていた。   半袖で歩いている人はちらほらで、   ほとんどが長袖か上着を羽織っている。   電車から降りてしばらく歩き家路に着く人々の中で   ジェイクは急に立ち止まった。 「どうした?」   細い路地の奥にぽっかりと穴を開けた   場所があった。   その穴は地下の店へ続く階段になっている。   ─── そこが、クラブ ”コミットプレイス”。   ジェイクは、店の前でオーナーと従業員が何やら   話しているのを目に留めた。   従業員はすぐに階段を下りて行ったが、   オーナーはそのままそこで煙草に火を点ける。   ジェイクに気付いたオーナーは、   精悍な顔立ちにジェイクのよく知っている   皮肉気な笑みを浮かべて、薄く煙を吐いた。    「ちょっと待ってて」   ジェイクは柊を残し、   店の前で煙草を燻らせるオーナー ───   神代 慧(かみしろ さとし)に近寄っていく。   ジェイクが知る限り、いつも高価そうなスーツを   着ていたがこの日もやはりブランド物らしい   ダークスーツを着ている。   普段着のチェックのシャツにジーンズという格好の   ジェイクだったが臆することなどない。 「なに、ニヤついてんの」 「べつにぃ ─── アパート、火事にあったん  だってな。今、田中が見に行ってきた」   神代は煙を吐いた。 「また、俺ん家のゲストルーム貸してやろうか」   前と変わってないぞ、と、神代はさらに   ニヤニヤ笑う。   ジェイクは顔をしかめてそっぽを向いた。 「家賃、払うのやだ。あんたしつこいんだもん」 「言うねぇ。どっか当てでもあるのか」   ジェイクは柊に聞こえないように、   当てンなるかどうか判んないけどね、   と小さく答え、後ろを ─── 柊のいる通りを   ちらっと見た。   神代もつられて目を向ける。   煙草の火が一瞬赤く灯った。 「ふーん。男前じゃないか? お前の客じゃないな」 「当然。あの人、外見はあんなだけどマトモだよ。  商売っ気ゼロ」 「マジで足洗う気か?」 「さぁね」 「もったいないな。最後にやらせろ、タダで」 「ぜってーやだ」   煙草の先から煙が白く流れ、   ジェイクの鼻をくすぐる。 「何だかんだ言ったって、お前面食いだからな。  篭絡(ろうらく)しちまうんじゃないの」 「そんなんやないって……もう行くよ」   話しを切り上げて、ジェイクは柊の所へ戻った。   柊は同じ場所でほとんど動かずに待っていた。   ほんの少しだけれど ───   ジェイクは柊が消えてしまうんじゃないか、と   疑っていた。   何となくほっとして、背の高い柊を見上げる。 「ごめん、行こう」  「……いいのか?」 「なにが?」 「あの人」   神代はまだ店の前で煙草を吸っている。   ジェイクと柊を見ていた。   ジェイクは軽く頭を横に振った。 「あぁ、アレはいいの。何でもない」   柊は何か言いたそうだったが、黙って歩き出す。   そのまま線路沿いの通りをしばらく進み、   近道だというガード下をくぐり抜ける。   そこは、普段のジェイクなら絶対に   足を踏み入れる事のない高級住宅街。   柊の暮らしているレジデンスはその一角にあった

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