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第6話 まずは、小手調べ?

「……1人暮らし? 無駄に広いな」   部屋を見渡したジェイクの感想は、   柊にとって新鮮だった。 「普通は綺麗なお宅ですね、とか、多少なりとも  お世辞くらい言うものじゃないのか」 「確かに綺麗ではあるけど無駄すぎ。小洒落たクラブの  バーカウンターみたいなアルコール陳列棚、  広すぎるリビングにお綺麗すぎるアイランドキッチン  どうせ使いもしないエコ生ゴミ処理機とか、やたら  お高い食器洗浄機とかついてるんだろ」 「よくわかるな」 「パターンだからな。それより、すぐ始める?  お風呂入る?」 「先に清算から済ませよう。いくらだ」   普段あまり使わない札入れを取り出す。   家であれば、多少吹っ掛けられても怯まない   程度には用意がある。 「まったく。金持ちは豪気だね。味見してから  じゃなくていいのー?」 「ジェイを信じる事にする。オレに損をさせる気は  ないんだろう?」 「言うね」   閃く眼光。いい目だ。やはり良い拾い物をした。   柊は確信した。 「でも俺は後清算主義だから。途中でオプション  付けても『最初に払った』って踏み倒されんのは  嫌だからね」 「しっかりしてるな」 「苦労人なの」   苦笑する柊を見ながらジェイクは肩を竦めて   みせた。   ジャケットを脱いでネクタイを弛める。   まだ夜は長い。   すぐに事を始めなくても時間にはまだ余裕がある。 「まずシャワーを浴びようか」   その隙に乗じて彼の体を抱き上げる。   間近に見るとますますその端正で鋭い美しさに   魅かれた。   体は顔立ちに反してなかなかしっかりとした   感触だった。   着やせするタイプなのかもしれない。 ***  ***  *** 「うへぇ―― ラブホみたい」   バスルーム。   洗面所兼脱衣所の入口で吐かれたひと言は   想定内だった。   浴室内部はシャワーブースとバスタブがあるだけで   至って普通だが、その外の洗面スペースは   奥行きのある壁面すべてが鏡張りなのだ。   入口であるスライド式扉を閉めると正に鏡の間だ。   照明効果を狙ったのだと聞いていたが、   入居当初はすべてさらけ出されるようで落ち着かず   片面にカーテンを取り付けたこともあった。 「作り付けだから私の趣味ではないが」   首筋に軽くキスをして、   彼女を洗面台の横に座らせる。 「慣れれば悪くない。正面に居ながらキミの背中や  腰つきまで鑑賞できる」   シャツを落とすと、きめ細かな肌が露になる。   抱き上げた感触通り、無駄なく引き締まった   理想的な体躯だ。 「何かスポーツを?」 「モテたい一心でメジャーからマイナーまで手ぇ付け  まくったけど、何ひとつ長続きはしなかった。でも  初めて祖父さんと大喧嘩した時、滅茶苦茶のされ  ちまってさ。”悔しかったら、こんな老いぼれでも  対等に剣を交わえるようになってみろ”って言われて  ダウンタウンの剣道場に通うようになった」   鋭さがほとんど削がれた無防備に近い表情。   ”喧嘩ならだれにも負けん”と、得意気に話す顔は   幼くすら映った。   夜の街での印象とはまるで違う。 「ほ~う、そいつぁ頼もしい」 「それより――――」   瞳が一変し、再び妖しげな色香が灯った。 「あんたも脱いでよ」   彼の手が僕のシャツをせり上げ、   滑り込んできた。   指は這い上がりながら腹筋やわき腹を撫であげ、   寄せられた唇が後をなぞるように続く。 「いい体。胸板厚いの結構好み」 「……っ」   はだけた胸に這う舌が艶めかしく、   飢えていた訳でもないのに   早々に昂りが沸き上がってきた。 「感じた? 後で俺にもしてね?」   リードされる事には慣れていない。   気取られないようそっと肩を押して引き剥がし、   今度はこちらから耳元に唇を当てて囁く。 「ジェイはココが良いんだろう?」 「あっ ―― ハッ……」   既に硬くなっている胸の尖りを両方同時に   いじってやると、甘く吐息しながら体を震わせる。   発達した突起は性感帯の開発された証でもある。   強調されたそこは、   触れられただけで敏感に反応するくせに、   恥じらうような淡い紅色でこちらの情欲までも   掻き立てた。 「あっ、あっ……やっ……ん」   僕の肩口にしがみつきながら、   小刻みな喘ぎが絶え間なくあがる。 「これだけで達っしそうだな」   だがそれでは面白くない。   優しく撫でさするような動きで宥めながら、   喘ぎを漏らす唇をそっと指でなぞった。   薄く潤んだ瞳が訝しげに細められる。 「……ね、キス、してい……?」 「あぁ、いくらでも好きなだけ」   途端に彼は乱暴に唇を重ね、   舌を激しく絡めてきた。 「っ……」   抱き寄せながら深く口付けると、   彼も動きを合わせて僕の舌を導いた。   これから始まるであろう熱い饗宴を前に、   僕は今まで感じたことのない昂揚で、   軽く眩暈を覚えた。

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