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第12話 

  その頃、ジェイクは数年ほど前から体調を   崩しがちで、今も入院している母・マーサの   見舞いに来ていた。   『―― ジェイ』   明るい声と共に肩を叩かれて、   ジェイクは弾けたように振り返った。 『何、こんなとこで突っ立ってんのー?』 『なん、だ。サクラか……』   きょとんとした顔をしてジェイクを見返して   いるのは、従姉妹のサクラ(14才)。 『遠慮しないで入ればいいのに』 『べ、別に遠慮なんかしてないけど』   母の見舞いに来るのはほぼ1ヶ月ぶりなので   入り難かったのは確かだ。 『叔母さんだって、ジェイがバイトで忙しくしてるの  よう分かっとるから、気にしなくてもいいのよ』   このサクラは母の家系の中で一番賢く、   学校の成績もいいので、ジェイクの腹違いの弟・   ヨシュアと同じ私立のハイスクールへ通っている。   今は、母の容態の急変にも随時対応出来るように   との病院側からの要請で、以前母が営んでいた   ダイナーの給仕長・相良さんと共に一時的に母へ   付き添い看病にあたっている。   母・マーサ・マイヤーは、父から引き継いだ   ダイナーに暗雲が立ち込め始めた   ☓☓年☓月急性心筋梗塞で倒れ、   精密検査で肺にがん細胞が発見された。   既に細胞の転移が体の数カ所に確認された   ため手の施しようがなく。   この☓年間入退院を繰り返し   薬物投与と放射線照射による延命治療が   なされている。 「―― 堪忍なお母さん。ホントはもう少し早く  来たかったんだけど、センセの許可がなかな  貰えなくて」 「うん、先生の言いつけはちゃんと聞かなきゃだめ。  あんまり無理して来なくてもいいのよ」   ベッドの上、半身起こして座っているマーサは、   ジェイクが1ヶ月前に会った時よりふた回りは   小さくなったように見えて、それがジェイクの胸を   ぎゅっと締め付けた。 「ねぇ、もっとこっちへ来て顔、良く見せて  ちょうだいな」   ジェイクはオズオズとベッド脇へ近寄った。   そのジェイクを力一杯優しく抱きしめるマーサ。 「お、お母さん、恥ずかしいよ ――」 「相変わらずヤセぎすで鶏ガラみたいね。  ちゃんと食べてるのー?」 「もーうっ。鶏ガラは酷いなぁ……でも、前より  好き嫌いだって随分減ったんだよ」   と、ジェイクもマーサの背中を優しく撫でながら。 「母さんこそちゃんと食べてる? 副作用で大変だけど  滋養のつく物たくさん食べて体に精つけなきゃ」 「うん、そうだね。私だってまだまだ落ちぶれちゃ  いらんないわ」 「おう! その意気だ」   まだまだ名残は惜しかったが、   アルバイトを探しに回らなければいけない。   柊はジェイクが今まで関わった人の中で   間違いなく一番いい人だ。   きっと自分が何らかのリアクションを取らなければ   このままずっとあの超・超豪華なコンドミニアム   レジデンスに居続けさせてくれるだろう。   いい人だから、出来ればこの先も彼とは末永く   付き合って行きたかった。   立場を対等にする為の独立だ。 「―― んじゃ、また来るね~」   果たして次回もこうして顔を合わせて   会話する事が出来るのだろうか? と、   一抹の不安を感じながら、   後ろ髪を引かれる想いでマーサの病室を   あとにした。   面会人と職員用の通用口まで、   マーサの一番初めの入院以来ずっと   付き添い看護をしている、   相良蓮が見送りに着いてきた。 「ホントは息子であるボクが看病くらい  してあげなきゃいけないのに、  面倒全部あなたに押し付けちゃって  申し訳ないです」 「と、とんでもねぇです。血の繋がりはなくとも  社長は私の実の姉。最後までご奉公させて  頂きます。 それにしても、坊(ぼん)  イヤ ―― ジェイクさん――」   と、感慨深か気な眼差しでジェイクを見つめ。 「しばらく見ねぇ間にすっかりご立派に  なられて私は ―― 私は……」   そう涙で言葉を詰まらせる相良。   ジェイクも貰い泣き気味に声を掠れさせる。 「やだなぁ~相良さんってば、涙もろいのは  相変わらず?」 「へへ ―― 面目ねぇ」 「…………相良さん」   ジェイクは居住まいを正し、   相良へ深々と頭を下げた。 「ぼ、坊――何のマネです? 頭、上げて下さい」 「これからも母の看護、どうか宜しくお願いします」 「……はい。私のようなハンパ者でもお役に立てる  のなら、喜んでお世話させて頂きます」

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