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第19話 幼なじみ・②
今日は初めて1人でお留守番。
慎さんは接待が2件も入っていて多分帰宅は
真夜中になる。
大地は史江さんと一緒に歌舞伎見物。
夕方ちょっと早めにラッキー
(ラブラドールレトリバー・雌2才)の
散歩を済ませ。
自分の夕食と慎さんのお夜食を用意してると――
”ピンポ~~ン ―― ”
来訪者を知らせる玄関のチャイムの音に、
俺は壁の時計を見ながら思った。
こんな時間に誰だろ……。
来訪者はビニーだった。
その服は砂埃にまみれ所々破れたり・擦り切れたり
していた。
ボロボロなのは服だけでなく、
当然ながらビニー自身もまた同じような状態だった
俺は早速ビニーをLDKへ招き、
傷の手当てを施してやりながら聞いた。
「―― で、負けたのか?」
「アホ、勝ったわ――ま、今日のは頭数おったんで
ちょっと手間取ったけどな」
「何や最近多くないか? お前、何かしたか?」
「はっ! アホぬかせ。オレがその辺のゴロツキ相手に
何せぇっちゅうねん」
「一応、ニコさんに知らせとかなくていいの?」
「オレ1人に勝てんような雑魚やで、わざわざ組の
問題にする事ぁない」
!! お前、そーゆうトコ、マジ組長気質……。
「けど、ヤバくなったら手遅れにならないうち
教えろよ」
「おおきに ―― なぁ、ジェ~イィ?」
と、姿勢を正して俺へ向き直り。
当たり前のような流れで俺の唇へ自分の唇を
重ねた。
そりゃ初めてされた時は体が硬直しちゃうくらい
びっくりしたけど、
最近じゃ俺にもこんなビニーの不意打ちキスに
対抗できる余裕も出来て。
すかさずビニーの後頭部をグー(げんこつ)で
思いっきりどついた。
「いっ ―― たぁいっ!!」
「こーゆう事は彼女作ってやれって、何べん
言わせるんだ?!」
ホント、いつまでたっても進歩のないビニーには
いい加減頭にきて、プンスカ怒って立ち上がり
戸口へ向かった。
するとビニーは懲りもせず俺の背後から尚も
追い縋ってきた。
「あ~ん、そんな怒らんでよぉ、ジェイおったら
女なんかいらへんもんっ!」
「お前、そのセリフ頼むから慎さんの前でだけは
言わん方がいい」
「へんっ。あんな年中発情期のエロ親父なんか目ぇじゃ
ないわ。オレのジェイに対する愛情は海よりも深く、
天より高いんじゃ」
「あぁ、そうかい」
「なぁ、ジェイ、ジェ~イ~――ジェ~イ~っ!」
「ええい、ウザったい!
お前は盛りのついた猫かっ?!」
ビニーは俺が立ち止まった隙にその前へ回り込み
今度は俺に逃げられないようしっかりその頬を
両手で挟むようホールドした。
「ああ、お前に発情しとる」
と、再び唇を重ね合わせてきた。
「んっ―― ビ……」
こ、こんなん、シャレにもならへん、やん……。
戸惑った俺がじっとしているのをビニーは
”OK”の意味に取り違え、
俺の唇を自分の舌先でこじ開け滑り込ませた
その舌で俺の舌をゆっくり絡めとり、
俺が儚い抵抗で逃げても、強く吸い付いてきて
存分に俺の口腔内を舌で愛撫し、
濃厚な口付けを楽しんだ。
ビニーの心得た優しい口付けは、たちまちまともな
思考すら麻痺させていく。
だけど、ビニーが俺のシャツの中へ滑り込ませた
手の感触で俺は瞬時に現実へ引き戻された。
そして、自分のシャツの中からビニーの手を
引き抜いたと同時に、その手を逆手に捻り上げた。
「☆!?いでででで――っ、なんでアカンねん?!」
「なんでって――そんなん、ダメに決まってるだろっ」
「じゃあなんでキスはさせてくれたん?」
「あ、えっと、それは――キス、だけなら、何も
減らないかなって……」
「ほんなら、セッ*スもええやん!」
ブチッ。
ビニーのそのどストレートな言葉でブチ切れた
俺はもう手加減なし。
1度離したビニーの手を逆手に捻り上げながら
その背後へ回り込み、
そこで更にその手を捻り上げる。
う”ぎゃ~~っっ!!
絶叫しつつ前のめりに倒れ込んだビニーの上へ
馬乗りに跨った。
「い”たいっ!――マジ、痛いって――
ホネ折れるぅぅっ!……嘘です、ウソです、うそです
さっき言ったことみ~んな嘘やし、もう何もせぇへん
から許してぇな、お兄様……」
俺はビニーの謝罪を聞き入れ、
その傍らへ座り直した。
「―― なぁ、ビニー。お前、誰かと付き合ってみたら
いいじゃん」
「ジェイがオレのになってくれるんか?」
俺、はぁ~~っと深いため息。
お前、まるで懲りてへんやろ。
「……さっきも言うたやろ? オレはジェイだけおったら
ええねん。他の奴は関係ない」
「だからぁ、お前がそうやって俺1人に全部ぶつけて
くるんは、いつも身近に俺しかおらへんかったから
だろ?」
「そら、ちゃうで。オレ、ほんまちっさい頃から
りんの事しか眼中なかったさかい」
「……ほんなら、もし俺がおらんようになったら
どうする?」
「?! ジェイ、おらんようになるんか??」
「これから先、お互い社会に出て行く上でそう
いつまでも一緒ってわけにもいかんやろ」
「……そーやなぁ……ジェイ、おらんようになったら
――泣く、かな」
「……泣くんかいな」
「うん……多分、泣く。そいで、それから後は
そうなってみんと分からん」
はぁ~~っ……。
アカン、こりゃやっぱり早う何ぞ手ぇ打たんと……。
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