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第18話 学校にて
学校の校舎をぐるっと囲むよう植えられている
並木の金木犀と銀木犀が今を盛りと咲き誇る、
早秋 ――。
朝の登校風景。
ジャージ上下姿の体格の良い中年教師と、
腕に”風紀”という腕章をつけた数人の生徒が
見守る(監視する?)中、続々と生徒達が
登校して来ている。
1時限(コマ)目・世界史の教室 ――
(アメリカの学校では固定のクラスはなく、
生徒が各教科の教室を回って授業を受ける)
『おっはー』『あー、おはよー』
『ねぇねぇ昨夜のMスタ見たぁ?』
『もちろん見たよ。デイビーめっちゃ
カッコ良かった!』
等など、同級生の女子達が昨夜見たらしい歌番組の
話題で盛り上がっている所に出くわすジェイク。
すり抜ければ通れない事はないが、首っ引きの赤本
からちらりと目を上げウザったそうに女子達を見る
『―― あ、ごめん、邪魔だったね』
そのまま赤本と首っ引きで女子達の脇を通って
自分の席に着くジェイク。
『なぁに? アレ。感じわるー』
『名門大の医学部目指してるガリ勉くんは、うちら
落ちこぼれなんか目じゃないんでしょー』
『けど、新学期始まったばっかなのに、あんなのが
この1年一緒だと思うとブルーよねぇ』
この東(イースト)地区ハイスクールは日本で言う
幼・小・中・高一貫教育の進学校だが、
校風は至って自由で厳しい校則もほとんどない。
今時の若者はいくら規則で縛ったところで、
それを厳守させるのは至難の業。
”強引に縛るから、破る人間もいる”という
考えのもと ――。
近辺にあるほとんどの学校で禁止されている
アルバイトも、染髪・ロン毛・パーマ、ピアス等の
ピンポイントアクセもOK。
男女交際も年齢に見合ったお付き合いなら
基本的にOK。
これは生徒自身に自己管理を促すという目的が
ある。
生徒達の衣服も記念式典がある日以外は基本的に
私服OK。
だが、毎日コーディネートを考えてくるのが面倒に
なってきたのか?
最近の生徒はほとんどが制服通学だ。
『おっはー』
『『あー、おはよー柾也くん』』
八神 柾也(やがみ まさや)
学籍No.17番。
ジェイクのような隠れガリ勉タイプ・
アキバ系オタクタイプ・夜の町に出没していそうな
チャラ男タイプと、はっきり分かれる男子達の中で
珍しくどの区分にも属さない男子。
そして、どの学校にも1人や2人はいる
”頑張らなくてもデキる男子”で、
成績は学年トップ、スポーツ万能、おまけに
G6(中1)の時からメンズファッション雑誌の
専属モデルを務めるほどのいい男。
女子達の暗黙のルールで
”八神くんは皆んなのモノ。抜け駆けした者は
厳罰に処す”という決まりがあるほど。
『なぁ、知ってる? 真野センセの後任、来てるぜ』
真野、というのは先学期末で産休に入った
養護教諭。
『うっそー』
『さっき学院長室に入ってくとこ、見ちゃったぁ』
『男? 女?』
『お・と・こ』
『イケメン?』
『ん~……ま、そこそこイケてんじゃね?
俺ほどじゃあないけどなー』
全校女子の羨望を集めるイケメン男子は、
自分大好きのナル男でもあった……。
「―― おっはよう、ジェイク」
ジェイクは柾也に目もくれずぼそっと
『おはよ』と返事をしただけ。
「なぁなぁ、今度の日曜、ツーリングに行かね?
バイト代入ったから、ちょっと遠出してランチ
なんてどーよ?」
全くタイプの違うこの2人、幼なじみ。
幼稚舎の頃からの付き合いで、
最早 ”腐れ縁”とも言える仲だ。
「悪い。日曜は全国模試があるから」
「あ! そっか……すっかり忘れてた」
「お前は呑気でいいよな……」
全額給付型の奨学金を受けている生徒は、
その成績が規定外に落ちれば即退学となる
のだ。
「フフン、そこが俺っちのいいとこなのさ」
そこへ『はーい、皆んな席に着きなさーい』と
世界史教諭の笙野華子が入って来た。
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