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第17話 幼なじみ

  ドスッ、ボコッ、バキッ――――   ”ビニー”こと、ビニー・ラミレスの振り出した   鋭いパンチや蹴りが小気味よく不良達の急所へ   クリーンヒットして、   その不良達は次々と折り重なるようにして   倒れ込んだ。     ビニーは腕まくりに仁王立ちで勝ち誇った笑みを   浮かべる。 「まだヤる気ぃなら、いっくらでも相手になるでぇ」   不良達は意味不明の雄叫びを発してほうほう   (這々)の体で逃げ出して行った。   傍らに立つビニー第1の子分を自称する   後輩・マイキーがその不良達の後ろ姿へ向かって   キメ台詞。 『恐れいったかこのどチンピラ!このドラゴン  ラミレスを舐めたらあかんぜよ』   注! 最後の”舐めたらあかんぜよ!”のみ、       何故か日本語。   日本の任侠映画が大好き! という   ビニーに感化され、初めて見たDVDで一生懸命   覚えたらしい。   因みにその任侠映画とは『鬼龍院花子の生涯』で。   件の決め台詞は、本編中、故・夏目雅子が ――   夫の葬儀で遺族に冷たくあしらわれ、   一世一代の啖呵を切る、という場面で使われた。   儚い女性ながら、心根は芯の強いやくざの娘である   ことを見せつけた名台詞。   ビニーとマイキーの後方から――   「こらっ、何やってんねん? お前ら――」   という声は、久々に学校で勉学に励んできた   ジェイクだ。     自分の地元はニューヨークなのに、   ビニーはジェイク大好きが嵩じ過ぎ   家族の猛反対を押し切って強引に引っ越した強者。   そんなだから、ビニーはジェイクにベタ惚れだ。   いつもは硬派の武闘派を気取る男・ビニーも、   ジェイクの姿を見たとたんデレ~~ッと締りのない   表情になってしまう。 「ジェ~イクゥ (*´ェ`*) やっぱ待っとって良かったぁ」   家業の影響からか?   極道やギャングが出てくる映画が好きで、特に   1980年代から2000年に公開された日本の   東映任侠映画が大好き!   故・高倉健さんや若山富三郎さんを”心の師”   と崇拝している。     また、ほとんどの日本語はそこから学んだ為、   英語より関西弁の方が堪能という変なアメリカン。 「飽きもせずまた喧嘩? ほんといい加減に  しないと、若頭に雷落とされるよ」 「へっ、こないなもん喧嘩のうちにも入らんわ。  なぁ、ジェイ~、一緒帰ろな?」 「お、うん」   ジェイク、ビニーは隣あって並び、   その後ろへマイキーが立つという、   いつもの立ち位置で3人は歩き出した。 『あー、こうやって3人で一緒に帰るの  久しぶりっスね』   マイキーがニコニコしながら言った。   彼はパティシエの専門学校に通っている。   でも、ビニーの呼び出しには100%いつも応じて   いるせいで、謹慎・停学処分はしょっちゅうで、   2回もダブっている。 「そ~言えばそうやな。お互い野暮用とかで  忙しかったし」 『――じゃ、兄貴また明日駅前のサ店で』 「おぉ」 『ジェイクさんもお休みなさい』 「おやすみ~」   市営住宅の前でマイキーと別れ。   しばらく歩くとビニーの自宅・ラミレス家の   長いブロック塀が続く道に出て、   いかつい家の門構えが見えてくる。 「じゃ、ビニーもおやすみ~」 「おお、気ぃ付けて帰りぃや」   ジェイクが居候する柊のマンションは   このビニーの家のちょうど裏側に   位置するブロックに建っている。   初めて柊の自宅へ向かう時ジェイクは   『―― ゴールドコースト? すっげー、    超金持ちなんだな』と、驚いて見せたが。   ジェイクの実家・都村家も同じゴールドコースト   地区にある。 ***  ***  ***   昔から、ずっと一緒にいたから。   ビニーが普通じゃないって言われるのが、   何でかよく分からんかった。   ただ、ちょっと親父さんが強面で。   姐さんも物凄く迫力があって、   いかつい家に住んでて。   そこには ”兄弟” ってゆう   本当の兄弟じゃない人らが   たくさんいる。   ただ、それだけ。   ビニーはめっちゃいい奴だ。   極道の息子だからって、   何やってゆうねん!! ***  ***  ***    ラミレスファミリーといえば、   その筋じゃ地元で知らん者はいない程の有名一家。   でかい看板ブラ下げて、シノギを削って現在4代目   由緒正しいニューヨークマフィアである。   ビニー・ラミレスはその4代目の1人息子。   心臓に持病のある4代目がいつ倒れても、   その跡目をしっかり継げるようにと生まれた時から   手塩にかけて大切に育てられた箱入りである。   サンタフェの寄宿学校にいた時ルームメイトに   なった事で仲良くなった。     ハナシは多少遡るが。   そのビニーが、   2回目の留年が確定した201*年2月末の   ある日の朝食の席で、   とんでもない爆弾発言をぶちかました。 『―― 俺、組継ぐの辞めた』 「「「え”え”~~っ!!」」」   口をへの字に曲げ、   渋顔で腕を組み畳へ胡座で座るビニー。   詰め寄る若頭・ニコ、他、組員達も   表情は皆深刻だ。 『――やっと後1ヶ月っ……今度こそ真面目に  稼業を見てもらえると思ってましたのにぃ』 『卒業したら、やろー? 俺の留年確定やし』 『んなもん、ラミレスの力でどうとにもなりまっさ』 『あー、不正行為はあかんのやでぇー』 『ヤクザが何寝言いうてますのや』 『そんな事より若ぁ、何でよりによってお巡りがええ  だなんてっ――さっぱりわけわからんっ』   がっくり肩の力を落としているニコに、ビニーは   シレっとした表情で告げる。 『恰好ええやん、オマワリさん――なぁ?』   ”なぁ?”と、同意を求められても、どう反応   したらよいか? さえ組員達は戸惑う。 『若は今までわいらがしてきた苦労を全て無駄に  させる気ぃなんですかっ?!』 『もうええやん! 父ちゃんかて、お前の好きにしたら  ええて云うてくれたしぃ』 『そりゃ言いますよ、親分にとって若はかけがえのない  愛(まな)息子なんですから』   するとビニーは、室の出入口近くでちょこんと   座っているジェイクの方へやって来て、甘えるように   べったりくっついた。 『オレは堅気の仕事に就いてジェイと幸せな家庭を  築くんや』 『そのジェイクさんも若の5代目襲名を望んでいる  としてもですか?』   ビニーはまじまじとジェイクを見つめて問う。 「そう、なんか?」 「んー……まぁ、お前の性格からして、おまわり  なんかより似合ってると思うわ」   惚れている弱み、というか、ビニーもジェイクから   面と向かってそう言われると、   グッと言葉に詰まった。 『せやから若――』   しかし、ビニーはおもむろに立ち上がると   戸口に向かって。 『と、とにかくオレは継がんと言ったら、  絶対継がんからなっ』   足音も荒々しく足早に出て行ってしまった。   その後ろ姿を見送りつつ、   深々とため息をつくニコ。 『……今までジェイクさんの言うことだけは素直に  聞いてきましたのになぁ』 『ま、そう心配ないと思いますよ。ビニーの事だし、  じき違う事言い出すに決まってる』 『だといいですが……』

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