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第344話 邂逅 18-1
ふいに意識の片隅で、小さな音が響いた。
「……ん?」
その音でぼんやりとした頭が徐々に冴え始めた。身じろぎして重たい瞼を持ち上げれば、使い慣れた枕に顔を埋めている自分に気づく。
「あ、れ? いつ寝たっけ」
しっかりと肩までかけられた布団から腕を出し、はっきりしない頭を起こすように額に手を当てる。持ち上げた腕を目に留めて、自分がいまだ帰った時のままであることに気づいた。眉をひそめ室内に視線を巡らせば、上着とネクタイはハンガーにかけられているのが目端で確認できる。
それにしても――。
「いつ寝たんだ? 藤堂と弁当食べて、後片付けして……キッチンに入った藤堂を見てた覚えはある」
そこでぷつりと途切れた記憶。そのままうたた寝でもしてしまったのか、だとしたら藤堂は?
ふと過ぎった疑問に慌ただしく身を起こし、僕は布団を跳ねのけて部屋の戸を引いた。この部屋はリビングと戸を一枚隔てただけの部屋だが、いま向こう側から音がまったく聞こえない。先ほど、微かに物音が聞こえたきりだ。
「藤堂?」
しんとした室内、リビングの明かりは灯っている。けれどそこに藤堂の姿はなかった。見えない姿を探すように、キッチンへ視線を向けるが、明かりはなく人の気配もない。
静まり返ったその空間を見ていると、急に言い知れぬ不安が沸き起こり、息が詰まって止まりそうになった。一瞬くらりと目が回るが、踏みとどまり急いで玄関へと足を向けた。
「え?」
慌ただしくリビングの硝子扉を引いて、僕は目の前に続く廊下の先を見る。そして薄暗いその先に、懐かしい小さな背中が見えたような気がして血の気が引いた。そして我に返ると、震える手で玄関扉を押し開いている自分がそこにいた。
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