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第346話 邂逅 18-3

 藤堂が悪いのではないと、そう言いたいのに吸い込んだ空気にむせ返る。そしてそんな咳き込む自分の背を、ただ黙って優しく撫でてくれる藤堂の手に、感極まりついに僕の涙腺が決壊した。 「佐樹さん、俺はどこにも行かないから、ちゃんとここにいます」  突然、子供みたいに泣きじゃくる僕に、困惑する藤堂の気配を感じる。けれど一度壊れたものはそう簡単に元に戻らなくて、言葉にならない声が喉奥から漏れるばかりだ。 「怖かったんですよね? 知らないうちにいなくなって、帰ってこなくなるんじゃないかって、思ったんでしょう?」 「……っ」  怖い――彼の言う通り、確かに僕は怖いのだ。自分の知らぬ間に誰かがここからいなくなることが、怖くて怖くて仕方がない。ほかのことは気持ちの整理と共に少しずつ慣れ、平気になった。でもこれだけはどうしても不安が拭いきれない。  杞憂だということはわかっている。 「ごめん」 「どうして謝るの?」 「……お前が、好きだから」  決して言葉にはしないが、僕の中に彼女の存在が残っていることを藤堂がよく思っていないことは知っている。けれど彼はそんな僕に優しく笑う。 「じゃあ、謝らないでください。いまは俺だけだって言ってくれたでしょ」 「言った。お前が、いい」  藤堂でなければ嫌だ――それ以外、いまの自分には考えられない。いやいまも昔も、傍にいるのは彼がいいと、彼でなければ駄目なのだと僕はそう思った。それにいなくなってしまうとそう思っただけで、こんなに苦しくなるのは藤堂だけだ。 「だったら俺だけ見て、俺のことだけ考えてればいい。ほかのことなんか見ないで」 「……ん」

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