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第1092話 始まり 14-4

 いまにもあふれてしまいそうな想いを伝えたくて、背伸びをしてそっと彼の唇に口づけた。  彼が心からの笑みを浮かべているいまがなによりも嬉しい。まるで僕まで大切なものを手に入れた気分だ。 「お前が幸せだと僕も幸せだ」  いつだって僕たちはお互いのことを想ってきた。すれ違って傷つくこともあったけれど、僕たちの選んできた道は間違いではなかった。あの時あの瞬間、二人でした選択一つ一つが確かな未来を描いたのだ。 「じゃあ、いま俺たちすごく幸せですね」 「うん」  優しく頬に口づけられて胸が温かくなった。彼も僕と同じように喜びを分かち合ってくれる。なに気ないことだけれど、決してそれは当然なことじゃない。確かな想いがそこにあるからこそ相手の幸せを願えるんだ。 「これからが大変だと思うけど、僕も応援するから頑張っていこうな」 「はい、佐樹さんと一緒なら頑張れる気がします」  まっすぐな眼差しを受け止めてそっと触れるだけの口づけを交わす。するとほんの少し触れた、その先からどうしようもないほどの愛おしさがあふれてきた。両手を伸ばして頬に触れ、髪を撫で梳いて、僕は彼をもう一度引き寄せる。 「お前ならきっとうまくできるよ。楽しみにしてる」  初めて出会った時はこんな未来がやってくるだなんて想像もしていなかった。いまは新しく訪れる未来が心から楽しみだと思える。彼と一緒に歩いて行くこの先はきっと明るいだろう。平坦な道ばかりではないかもしれないけれど、それでも二人だったらなんだって乗り越えられるはずだ。 「佐樹さん、俺の隣で見ていてください」 「ああ、もちろんだ。優哉の描く未来で一緒に生きて行きたいよ」  出会って今日まで随分と長い道を歩いてきた。道の途中で何度も手を離してしまったけれど、この先はもう二度と――繋いだ手は離さない。絶対に離れたりしない。だから今日より明日、明日より先の輝く未来へ向かって、二人で一緒に手を繋いで歩いて行くんだ。  きっとそこにはいつでも新しい始まりがある。 [始まり/end]

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