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第1091話 始まり 14-3
照れくさそうに笑う優哉は店の中に視線を走らせ両腕を広げる。そして僕を見て小さく首を傾げた。
「……どうしよう。すごく嬉しい」
気づけば僕は飛びつくように目の前の優哉に抱きついていた。顔が自然と緩んできて、にやにやとするのを止められない。心臓は喜びで跳ね上がりドキドキとしている。
こんなに嬉しいことがほかにあるだろうか。高校の頃からずっとこの道を目指して頑張っていたことを知っている。一人前の料理人になって自分の店を持つということは、彼が初めて見つけた大きな夢だ。
この願望が叶うのはもう少し先かな、なんて思っていたけれど。それが本当にこうして叶う日が来るなんて、まるで夢を見ているみたいだ。でもこれが夢なんかじゃないことは、この場所を見ればわかる。新しい店、優哉の店――それだけで胸が震える。
「店で働くメンバーも決まったので、今度佐樹さんに紹介しますね」
「うん」
初めて出会った頃、彼には夢も希望もなかった。けれどいまは妥協することや我慢することばかり覚えていたあの頃とは違うのだ。自信を持って誇らしげに笑う彼は誰よりも輝いて見えた。すごく頼もしくてその存在が大きく思える。
「次に来る時は、この店の一番のお客になってくれますか」
「……もちろん、喜んで」
僕が言ったあのなに気ない、小さな約束まで覚えていてくれたのか。優哉はまた一つ僕の夢を叶えてくれた。それが嬉しくて涙がこぼれそうになる。優哉の背中を強く抱きしめて、僕は彼の肩口に頬を寄せた。
「少し早いけど、おめでとう」
「ありがとうございます」
「お前が思い描く夢は、僕が願う夢だよ」
「佐樹さんと二人でなら、どんな夢も叶えられそうだ」
顔を上げて優哉をまっすぐ見つめると、暖かな眼差しの中に自分の姿が映っているのが見えた。彼の中に僕が確かに存在するような気がしてすごく心が満たされる。
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