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第13話

* 「ん‥‥‥」 目を覚ますとそこは見慣れた部屋で、閉め切られたカーテンの隙間から溢れる光が朝を伝えていた。 まだぼーっとしている頭で、昨日の記憶を蘇らせる。 (昨日は‥‥‥放課後バイトに行って‥‥‥倒れちゃって、病院に運ばれて。目を覚ますと、冷たくて気持ち良い手が俺の頭に乗っていて‥‥‥その人は俺の担任で、従兄弟で‥‥‥それから‥‥‥) 「あ‥‥‥」 数分かけてやっと全てを思い出した。 昨日、つい言ってしまったこと。ついお願いしてしまったこと。とても迷惑をかけてしまったこと。 (どうしよう‥‥‥すっごく駄々をこねちゃった気がする) どうか夢だったらと願うのに、微かに聞こえる物音が現実なのだと伝えてくる。その音は次第に大きくなって、そして部屋の中に光が差した。 「起きてるか?」 控えめに響くその声の方へ振り向くと、バッチリと目が合う優しい瞳。 「あ‥‥‥せんせ‥‥‥」 「起きてた。おはよ」 「おはよ、ございます」 俺の返事に微笑んだ先生が、カーテンを開いてからそばに寄って来る。光を背にする先生は今日もキラキラだ。 先生の掌が頭に触れ、心地良いひんやりとした温度が額に広がった。 「熱はないみたいだけど、体調は?」 「えっと、大丈夫、です」 「そっか。一応学校休んでも良いけど、どうする?」 「行きます‥‥‥」 「ん。了解」 額から手を離した先生が、今度は「はは」と笑って頭をわしゃわしゃと撫でた。 「じゃあ、朝ごはんにしよう。準備出来たらおいで」 そう言って先に部屋を出てった先生を見つめて、呆然としてしまう。 (‥‥‥本当に帰らないでくれた) 嬉しいやら、申し訳ないやら、はっきりしない感情がぐるぐる渦巻く。 けどやっぱり嬉しくて。 朝起きてすぐ『おはよう』って言われたのは、誰かと一緒に朝ごはんを食べるのは、何年ぶりだろう。 そんなことを思いながら、ふと我に返った俺は、慌ててベッドから出て、顔を洗いに洗面所に向かった。 「わっ‥‥‥」 鏡に写っている、はね放題の頭。それを見て思わず絶句してしまった。 (だから先生、わしゃわしゃしたんだ‥‥‥!) この残念な頭を先生に見られたこと思うと、羞恥心で顔が熱くなって、いつもより数回多く水で顔を洗った。

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