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第12話 高谷広side

「叔父さん、広です」 『ああ。今日はすまなかったな』 「いえ。心は、今さっき落ち着いて眠ったところです。疲労と軽い栄養不足だったみたいで」 『‥‥‥そうか』 少しホッとしたような声に安心した。 いくら帰って来てないといっても、親は親。我が子を心配しないわけがない。 (けど‥‥‥) 「あの、叔父さん。家帰ってないんですか?」 本題に入ると、ピリッと空気が変わったのが電話越しに分かった。 『‥‥‥あいつが言ったのか』 「俺に帰って欲しくないって。寂しがってました」 『仕事だ。仕方ないだろう』 同じ社会人として仕事が大切なのは分かる。俺も、何度も恋人に我慢をさせてしまった経験があるから。 けれど、果たして本当にそれだけなのか。俺はそうは思わない。 「本当に仕事なんですか」 叔父さんが勤めるのは大手企業。そこは大手の割に無理のない勤務体系で有名で人気が高く、入社するのは至難の技らしい。そんな会社で、そろそろベテランとも言える叔父さんが毎日残業などするだろうか。 『学校という狭い場所しか知らないお前に何が分かる』 「‥‥‥」 誇りに思っている自分の職業を貶されたことは面白くないが、そんなことよりも心にあんな不安そうな顔をさせておいて悠々と仕事だと言い張る叔父さんに一番腹が立つ。 心の家族は叔父さんしかいないというのに。 「とにかく数日でも、帰ってきてあげてください」 なんとか心を鎮めてそう言ったのに、すかさず返ってくるのは心無い返答。 『無理だ』 「そんな‥‥‥心はまだ高校生になったばかりの子どもです。こんなの寂しいに決まってる」 『無理だと言っているだろう』 「何でっ‥‥‥」 『広、これはうちの問題だ。口を出すな』 「叔父さん!」 『‥‥‥あいつは母親そっくりだ』 「‥‥‥っ!」 叔父さんがついに漏らした本音ぬ息を呑む。 やっぱり危惧した通りだった。 心の母親。男を作って出て行った叔母さん。叔父さんは彼女を思い出したくないから、心のことを避けている。 (そんなの自分勝手すぎるだろ) どうして、心は何も悪くないのにこんな仕打ちを受けなければならない。どうして、あの頑張り屋さんが実の父親にこんな風に避けられなければならない。 「‥‥‥なら、俺が心と暮らします」 このままでは駄目だと思った俺は、無意識にそう言っていた。 どうしたって心を放って置けない。あの健気な子どもを一人には出来ない。 『‥‥‥好きにしろ』 プツッと切られたスマホを耳から離して握りしめる。 心を守ってやれるのは、担任で従兄弟の俺しかいない。 俺は無責任にも、そんなことを思っていた。

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