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第22話
*
「──ん」
(何だろう。誰かの声……?)
「──ん。しーん」
心地良くて、胸があったまる優しい声。
「心」
(そうだ。この声は……)
「せんせ……」
「あ、起きた」
目を覚ますと、ぱちりと合わさった視線。
見たことない黒縁眼鏡の奥で、優しい色を含んだ綺麗な黒い瞳。
「眠たいなら寝てて良いって言ったろ?こんなとこじゃ、風邪引く」
「……?」
だからお言葉に甘えて寝たのだけれど、何か間違ってしまったのだろうか。頭を傾げる俺に、先生は苦笑を漏らす。
「心、寝ぼけてる?俺ももう寝るから、取り敢えずおいで」
「どこに……?」
「どこって、ベッド」
言われるがまま手を引かれて連れてかれたのは寝室。ベッドを見たままぼーっとする俺の身体を優しく横たえた先生が、自らも布団の中に入って眼鏡を外し、見慣れた顔に戻った。
「ごめんな。うち客用布団ないから、買うまでは我慢して」
「布団……ぁ!」
先生のその行動と言葉をやっと理解した俺は起き上がって、リモコンで電気を消そうとする先生の手を掴む。
「い、いいですっ。俺、あっちで寝ます」
「何言ってんだ。そんな遠慮しなくていいよ」
「で、でも……狭いですよ?」
元々先生一人で寝ていたベッドで二人は狭いし、こんな状態じゃ先生の身体は休まらないと思う。たかが居候の身でそんな迷惑は掛けられない。
「でも、心はベッドに寝かせてあげたいし。だからと言って、俺がリビング行っても気にするだろ?」
「あ、当たり前、です……だから、俺があっちに」
「大丈夫。これ一応 セミダブルだから」
ベッドから出る間も無く再び横たえられてしまった。手際よく掛け布団をかけられ、続いて部屋の明かりが消える。
「で、でも……やっぱり俺──」
いくら良いと言われても、やっぱり申し訳なくてベッドから出ようとした俺だけど。
「こーら」
と、不服そうな声を出した先生に、なんと腰までホールドされてしまいました。
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